(社説)敬老の日 誰でも社会の支え手に
「サザエさん」の波平さんが「定年1年前の54歳」に設定された時代から、日本は大きく変わった。変化に即し、誰もが働きやすく、生きやすい社会をつくりたい。
3625万人。「敬老の日」にあわせ、総務省が推計した65歳以上の高齢者数である。総人口に占める割合は29・3%で人口10万以上の国・地域としては世界最高だ。
一方、年齢を重ねても働き続ける人は増え、今や65~69歳では半数を超える。就業者の7人に1人は65歳以上だ。人手不足が顕在化する中で、高齢者の活躍無しに社会を維持できない状況だ。
一定の年齢以上なら一律に「支えられる側」とくくる見方は、意味を失いつつある。13日に閣議決定された新しい「高齢社会対策大綱」は、年齢によらず、それぞれの状況に応じ「支える側」にも「支えられる側」にもなれる社会の必要性を説いている。
誰でもいつか必ず「支えられる側」になる。その時のセーフティーネット、すなわち「支える力」を強くするには、働けるうちに働き、支える側を増やすのが有効だ。
一方、高齢になれば、若いころと同じ時間数や密度で働くのは現実的ではない。体力や意欲、経済的な必要性でのばらつきも大きい。多様な働き方の選択肢があり、希望と適切に組み合わされる仕組みの構築が望まれる。
「支える側」としての貢献は、年齢に関係なく適正に評価されるべきだろう。フリーランスや数時間単位の雇用で働く人も増えるなかで、「高齢者だから安く使える」となれば、他の労働者の処遇にも悪影響を与えかねない。
同じ職場の同じ仕事でも、一定の年齢を過ぎると賃金が大きく減る「60歳の崖」も指摘される。年功賃金と裏腹の関係にあり、働く人全体の納得と意欲の維持の視点から、あるべき姿を考えたい。
高齢者の働く意欲に水を差す制度は見直すべきだ。その一つが在職老齢年金で、賃金と年金の合計が一定額を超えると年金が減る制度になっている。高齢者版「就労の壁」として意識され、年金減を避けるために働かない、あるいは就業調整する人がいる。
高齢社会対策大綱の策定に向けた有識者の報告書は、この制度の名を挙げて「見直しの検討が必要」と言及した。だが、政府内で方向性が定まっていないという理由で、大綱には明記されなかった。
公的年金は、来年の国会への法案提出に向け、5年に1度の改革が議論されている。ぜひ、支え手を増やす観点からの検討を望みたい。