新ワクチン、特徴は、安全性は 新型コロナ、定期接種始まった「レプリコン」=訂正・おわびあり

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 高齢者らを対象にした新型コロナウイルスワクチンの定期接種が10月から始まった。今回から使われる「レプリコンワクチン」をめぐっては、安全性を疑う情報が一部で流れたが、どんなワクチンなのか。(野口憲太)

 ■体内でmRNAが増幅、少量で効果期待

 定期接種で使われる5種類の一つが、Meiji Seika ファルマ社のレプリコンワクチン(商品名コスタイベ)だ。このワクチンは、新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統「JN.1」に対応したものが9月に承認された。

 新型コロナを防ぐ仕組みは、従来のmRNAワクチンと基本的に同じだ。新型コロナの「設計図」であるmRNAの一部を注射して、「スパイク」というたんぱく質だけを体内でつくらせる。これを体の免疫に記憶させて、実際の感染に備える。

 違うのは、注射したmRNAが一時的に体内で増えるように設計されている点だ。このため「自己増幅型」と呼ばれ、接種が少量でも効果があるとされる。

 ベトナムでの試験では、これまで一度も新型コロナワクチンを使ったことがない18歳以上の約1万6千人が参加。偽薬をうった場合と比べて、発症する人の割合は約半分に、重症の割合は約20分の1になった。

 主な有害事象(因果関係を問わず報告された健康への悪影響)は、注射した部位の痛みや筋肉痛、発熱など。ほとんどが軽度か中等度だった。

 臨床試験は国内でも行われ、追加接種としての有用性が評価された。従来のmRNAワクチンを追加接種する場合と比べて、接種1カ月後の抗体の量は1・4~1・5倍あり、半年後の時点でも抗体量は多かった。

 これらの結果から、審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)が有効性と安全性を確認した。ただ、従来のmRNAワクチンを上回る有効性があるかは、現時点で「結論付けることはできない」としている。

 国内の試験でも、主な有害事象は接種部位の痛みや発熱、倦怠(けんたい)感などで、従来のmRNAワクチンと大きな差はみられなかった。

 ■接種に懸念の声/メーカー反論「事実誤認」

 レプリコンワクチンに対しては8月、日本看護倫理学会が、接種を懸念する声明を公表した。(1)海外では未認可で安全上の懸念が疑われる(2)接種していない人にもワクチン成分が伝播(でんぱ)するおそれがある(3)人間の遺伝情報や後世に影響するおそれがある、とした。接種した人の入店や受診を拒否する動きもあった。

 これらの懸念に対し、Meiji Seika ファルマ社は「事実誤認および科学的知見に基づかない問題提起」だと反論。(1)について、欧州ではすでに申請され、米国などでも申請準備が進んでいる。(2)や(3)については、信頼度の低い論文や、特殊な条件での実験結果が根拠にされていると指摘した。

 同社の小林大吉郎社長は「非科学的な情報がまんえんして、本来接種すべき人にワクチンが届かないのは公衆衛生上の脅威だ」と述べ、科学に基づかない主張を繰り返す団体などへの法的手段も検討していると明かした。

 ワクチンに詳しい北里大の中山哲夫名誉教授も、(1)について、臨床試験の成績などから、日本で承認されたことに疑問はないとの見解を示している。(2)も「根拠がない」とその可能性を否定する。レプリコンでのmRNA増幅は一時的で、ウイルスが体内で増える仕組みとは違う。そのため、非接種者に伝播するとは科学的に考えられないという。

 ただ、中山さんは「未知数な部分もあるのは事実」とも指摘する。新たな医薬品などが広く使われる中で、臨床試験で気づかなかった安全上の問題が見つかる可能性はある。レプリコンの場合、人体だとどのくらいでmRNAが分解されていくのかなどはまだ分からない。「判断に資する情報がもっと明らかになることを期待したい」

 レプリコンを含む今回の定期接種について、日本感染症学会などは、新型コロナが公衆衛生に与える影響は依然として大きく、特に「高齢者の重症化・死亡のリスクはインフルエンザ以上だ」として、高齢者への接種を強く推奨している。

 中山さんは、今回のワクチンの役割は重症化を防ぐことにあるとして、「ワクチンをうったときのメリット・デメリットだけでなく、ワクチンをうたず感染して重症化することのリスクもふまえて、判断することが重要だ」と話した。

 <新型コロナワクチンの定期接種> (1)65歳以上(2)心臓や呼吸器疾患免疫不全などの重い基礎疾患がある60~64歳を対象に10月から始まった。接種は年1回、費用は自治体によって異なる。Meiji Seika ファルマのレプリコンワクチンのほか、ファイザーとモデルナ、第一三共のmRNAワクチン、武田薬品の組み換えたんぱくワクチンの5製品が使われ、いずれもオミクロン株の亜系統「JN.1」系統に対応している。

 <訂正して、おわびします>

 ▼6日付医療面「新ワクチン 特徴は 安全性は」の記事で、Meiji Seika ファルマ社の「小林大吉社長」とあるのは「小林大吉郎社長」の誤りでした。

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