(社説)原発と避難 複合災害で不安消えぬ

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 中国電力島根原発2号機(松江市)が再稼働した。県庁所在地にある唯一の原発で周辺住民は多い。能登半島地震は、原発がある地域での災害時の避難や屋内退避の困難さを見せつけた。複合災害のもとでも安全を確保できるのか、不安は消えない。

 島根原発は、避難計画策定が必要な30キロ圏域が島根県の4市と鳥取県の2市にまたがり、圏内の人口は約45万人。混乱を防ぐため、まず5キロ圏内の、次いで30キロ圏内の住民が移動する「段階的避難」とし、広島、岡山両県にも多くの人が逃げる計画だ。

 島根、鳥取両県が先月行った訓練は、原発事故と地震で避難路の一部が通行止めになったと想定。住民は自家用車やバスで移動したが、「道路の混雑でなかなか進めなかった」との不安が漏れた。

 1月の能登半島地震では、土砂崩れや路面の隆起・陥没が多数生じ、避難の難しさが露呈した。家屋の損壊も相次ぎ、屋内退避にも不安を残した。9月には豪雨にも見舞われた。地震・津波と大雨・大雪など自然災害が続き、そこに原発事故が重なる事態も非現実的とは言えない。

 原発事故の際の避難に関しては、30キロ圏内の人口が最多の日本原電東海第二原発茨城県東海村)について水戸地裁が21年、運転差し止めを命じた。周辺自治体の一部で計画が整っていなかったためで、東京高裁で係争中だ。

 東北電力女川原発宮城県女川町石巻市)の差し止め訴訟の控訴審では、仙台高裁が先月、避難計画に看過し難い過誤や欠落があれば差し止めが認められるとしつつ、住民の訴えを退けた。避難場所やバス輸送の確保について、臨機応変の決定を容認しているが、事故後の混乱の中で対応が可能だろうか。

 原発の安全対策を巡っては、災害の想定が十分かという問題がつきまとう。

 能登半島地震では、海底の活断層が連動して動き、大きな揺れを起こした。このため北陸電力は先月、被災地域に持つ志賀原発石川県志賀町)の対策で、断層が連動する長さの想定を約96キロから約178キロに見直した。

 中国電力はもともと、島根原発で活断層の存在を認めていなかった。しかし阪神・淡路大震災後に8キロとし、その後も段階的に約39キロに変更してきた。活断層の地震は海溝型に比べて発生頻度が低く、地域の特性も含めて知見も少ないのが実情だ。

 だからこそ、安全確保の最後の砦(とりで)とされる避難が重要になる。周辺住民の不安を置き去りにしてはならない。

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