(社説)温室ガス削減 世界目標満たす水準に
温室効果ガス削減の新しい目標を決める期限が近づいている。先月、環境省と経済産業省が案を示したが、世界的な目標達成に向けた水準としては不十分だ。削減幅を上積みする必要がある。
気候変動の国際ルールのパリ協定では、各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出し、実現に向けて取り組むことになっている。次の提出期限は来年2月だ。
環境・経産両省の案は、基本的には現行目標の延長で、2035年度に13年度比で60%削減するのが軸になっている。50年の排出実質ゼロと整合的な道筋だとの説明だ。
しかし、これでは明らかに削減が足りない。
21年の国連の気候変動会議(COP26)では、産業革命前からの平均気温の上昇を1・5度に抑えることが世界目標になった。昨年のCOP28では「19年比で30年までに43%、35年までに60%」の削減が必要と合意されている。
これは日本が基準とする13年度比なら66%減に相当する。両省案の60%減では、この水準に届かない。温室効果ガスの排出を重ねて発展してきた先進国として、責任を果たす姿勢とは到底言えない。
21年に掲げた現行の目標でも、30年度に「13年度比で46%削減」を目指すにとどまらず、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と世界に宣言していたはずだ。日本を含む先進国が高い目標を掲げることは、途上国に対策を促すことにもつながる。
短期的な経済上の利点にこだわって低い目標を掲げるのは、すでに顕在化しつつある気候変動の被害を軽視するに等しい。地球温暖化で災害や熱中症に拍車がかかり、犠牲者が増えれば、国内経済も打撃を受ける。
両省案は、経団連が10月に提言した数字に沿っている。経団連は1・5度目標の実現に必要な削減幅の範囲内に入るというが、その説明でも35年度段階での「幅」の下限に近い数字で、消極的な目標であるのは明らかだ。
環境団体からの批判だけでなく、大企業も含め気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として、13年度比で75%以上の削減を求めている。低い目標で再生可能エネルギーの拡大を怠れば、技術力を含め国際的にも後れをとりかねない。
策定中のエネルギー基本計画も、世界水準との整合性が問われる。温室ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と、再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべきだ。