文学
古井由吉『小説家の帰還』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「古井由吉対談集」で、6人の文学者たちと対談したものを集めている。対談相手は、江藤淳、吉本隆明、平出隆、松浦寿輝、養老孟司、大江健三郎と錚々たる人たち。いずれの対談も真摯な対話が交わ…
金井久美子・金井美恵子『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(中央公論新社)を読む。画家と作家の金井姉妹がホステス(?)になって、9名の作家たちと鼎談をしている。順番に蓮見重彦、武田百合子、西江雅之、大岡昇平、山田宏一、フ…
佐久間文子『美しい人』(芸術新聞社)を読む。副題が「佐多稲子の昭和」、作家佐多稲子の伝記である。佐多稲子はプロレタリア作家に分類されるが、その狭いジャンルに留まらず、現代日本のきわめて優れた作家のひとりと言える。佐多は明治37年生まれで、平…
谷川俊太郎が亡くなった。巷には谷川俊太郎を惜しむ声が溢れている。皆がほとんど谷川俊太郎を絶賛している。谷川が第一級の詩人だったことは間違いない。しかしここまで無批判に絶賛して良いものか。私が持っている谷川の詩集は『自選 谷川俊太郎詩集』(岩…
ジョン・ル・カレ『スパイはいまも謀略の地に』(ハヤカワ文庫)を読む。2020年に亡くなったル・カレの最後から2番目のスパイ小説。さすがにいつも通りの人間性を掘り下げた見事なスパイ小説だ。読みながらいつも通り圧倒された。 だが、私には本書を簡潔に…
小川洋子『妊娠カレンダー』(文春文庫)を読む。「妊娠カレンダー」「ドミトリイ」「夕暮れの給食室と雨のプール」の3短編が収録されている。ちょっと変わった小説集。『博士の愛した数式』が面白かったので手に取った。『博士~』の面白さには及ばなかっ…
村上春樹『TVピープル』(文春文庫)を読む。1989年ころの雑誌に発表した短編集。当時村上春樹40歳くらい。 「TVピープル」「飛行機」「われらの時代のフォークロア」「加納クレタ」「ゾンビ」「眠り」の6編が収録されている。 「飛行機」は昔で言う有閑マ…
川上未映子(訊く)・村上春樹(語る)『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮文庫)を読む。川上がインタビューアーになって村上が答えている。対談は4回行われ、最初は2015年に雑誌『MONKEY』に掲載され、翌年村上が『騎士団長殺し』を書きあげ、その作品を…
『井坂洋子詩集』(ハルキ文庫)を読む。井坂洋子の詩を読むのは初めてだったが、こんな優れた詩人だとは知らなかった。 制服 ゆっくり坂をあがる 車体に反射する光をふりきって 車が傍らを過ぎ スカートの裾が乱される みしらぬ人と 偶然手があってしまう事…
三野博司『アルベール・カミュ』(岩波新書)を読む。若いころカミュの『異邦人』は私の最も好きな本の一つで、たぶん10回以上読み直している。ただ、『異邦人』以外はそれほど好きではなく、いずれも1回しか読まなかった。 本書で三野はカミュの小説や評論…
出久根達郎『本の身の上ばなし』(ちくま文庫)を読む。出久根達郎は元古書店主で直木賞受賞者。達者な筆致で古書業界を語るエッセイが面白い。本書は『日本経済新聞』の2019年から2020年の土曜日に毎週連載されたものをまとめている。本文庫で毎回4ページ…
荒川洋治『文学の空気のあるところ』(中公文庫)を読む。詩人の荒川が各地で行った書物にまつわる9つの講演を集めたもの。荒川は書評家としても一流で、たくさんの小説や詩歌を読んでいる。その文学愛にあふれた講演はいずれも楽しくて、機会があれば聴講…
松岡和子『深読みシェイクスピア』(新潮文庫)を読む。シェイクスピア全作品の個人翻訳に取り組んだ松岡和子に小森収がインタビューして本書が成立した。『ハムレット』、『ヘンリー6世』3部作、『リア王』、『ロミオとジュリエット』『オセロー』、『恋…
サリンジャー、村上春樹・訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社)を読む。昔、野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』を読んでとても気に入った記憶がある。もう50年から55年くらい前だ。そんなに古い記憶なので、内容はほとんど覚えていなかった。この…
カフカ著、頭木弘樹 編『決定版 カフカ短編集』(新潮文庫)を読む。なぜ今カフカ短編集かと思ったら、編者の頭木は20歳で難病になったと後書きで書く。13年間の闘病生活で、『決定版カフカ全集』(新潮社、全12巻)をかたわらに置いて、全巻をそれぞれ100回…
文藝春秋 編『想い出の作家たち』(文春文庫)を読む。故人となった作家たちの家族から、作家の想い出を語ってもらうというインタビューシリーズ。1990年~1993年の『オール讀物』に連載された。インタビューアーは岡崎満義。家族だけが知っている作家の内輪…
ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』(講談社文庫)を読む。知らない作家だった。1936年にアメリカのアラスカで生まれ、鉱山技師の父親に従ってアメリカの鉱山街を転々とした。戦争中はテキサスの母の実家に住んだが、祖父は酒浸りの歯科医だった。…
夭折の霊か初蝶地を慕う 墓までの遠き道辺の姫女苑 家重し七耀歩む蝸牛 大夕立人は魚となりて跳ね 眠られぬ夜はまず風鈴を眠らせる 秋燕の並みて越ゆべき海を見る コスモスの背き合いつつみなやさし 血の色に昇るもやがて名月に 触れられて触れて芒の道を行…
馬場あき子『掌編 源氏物語』(潮文庫)を読む。あの長大な源氏物語を文庫本1冊にまとめたもの。香老舗松栄堂が法人設立50周年の記念事業で『源氏物語』54帖の物語の絵をそろえたいと企画したもの。京都画壇の日本画家54人に依頼して描かれた絵に、馬場あき…
大江健三郎・江藤淳『大江健三郎 江藤淳 全対話』(中央公論新社)を読む。全対話とあるが、1960年、1965年、1968年、1970年の4回になる。 1960年の対話は安保改定に関するもので、政治に無関心な層が多い『週刊明星』で行われ、わずか6ページにしか過ぎな…
ジャック・ケルアック、青山南・訳『オン・ザ・ロード』(河出文庫)を読む。原書は1957年に出版され、日本でも1950年代にすでに『路上』の題名で翻訳発行されていた。アメリカで原書が発行されてすぐベストセラーとなり、ビート・ジェネレーションのバイブ…
豊崎由美『時評書評』(教育評論社)を読む。副題が「忖度なしのブックガイド」、これが素晴らしい! 書評家としては斎藤美奈子のファンだけど、斎藤に劣らず魅力的な書評を書いている。ほとんど毒舌に近い辛口の書評! 読み終わって推薦されている本を早速…
石垣りん『詩の中の風景』(中公文庫)を読む。荒川洋治が毎日新聞の書評で本書を紹介していた(2024年3月30日)。荒川洋治の推薦する本は外れがないと個人的には思っている。それですぐ購入して読んだ。 百姓をやり猟師もやる朝日新聞の名物記者近藤康太郎…
吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』(講談社文芸文庫)を読む。吉本隆明の詩集。本書は『転位のための十篇』より後、1950年代前半から80年代半ばまで書かれてきた作品から著者が自ら選んだ65篇、単行本として刊行された詩集『記号の森の伝説歌』『言葉から…
ゴールズワージー著、法村里絵訳『林檎の木』(新潮文庫)を読む。私の古くからの友人が、感動した小説として4冊を挙げた。ドストエフスキー『罪と罰』、スタンダール『赤と黒』、ツルゲーネフ『初恋』、ゴールズワージー『林檎の木』だった。私はこの内『…
金子光晴『詩人/人間の悲劇』(ちくま文庫)を読む。「詩人」は自伝、「人間の悲劇」は自伝的詩集。「解説」で高橋源一郎が、日本を代表する近代詩人のベスト5を選んで、中原中也、宮沢賢治、萩原朔太郎、高村光太郎らと並べて第1位に金子光晴を挙げている…
出久根達郎『[大増補] 古本綺譚』(平凡社ライブラリー)を読む。出久根がまだ作家ではなく古本屋の店主だった頃、経営する芳雅堂の古書目録『書宴』の埋草として書いていたものが評判を呼び、新泉社から『古本綺譚』として出版された。それを「大増補」し…
イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)を読む。イザベラ・バードは1931年イギリス生まれ、明治11年、48歳のとき来日して6月から9月にかけて日本人従者をたった1人連れて東京から北海道へ旅行している。その詳細な記録。道路事情は最悪で…
『出久根達郎の古本屋小説集』(ちくま文庫)を読む。古本屋店主にして直木賞作家になった出久根の古本屋に関する小説を集めたもの。出久根は中学卒業後集団就職で東京月島の古本屋に就職し、29歳のとき独立して高円寺で古本屋を開業する。 昔(9年前)出久…
奥憲介『「新しい時代」の文学論』(NHKブックス)を読む。副題が「夏目漱石、大江健三郎、そして3.11へ」。 第1章で夏目漱石の『こころ』を取り上げ、全体の半分に当たる第2章で大江健三郎が取り上げられる。3分の1に当たる第3章は「「新しい時代」の文学…