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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・橙色録 3

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    晴奈の話、第306話。
    分かってくれない。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「はぐはぐ」
     この街でも、いや、この国でもシリンの食欲は変わらない。食堂の机に、次々に皿のタワーが作られていく。
    「相変わらず良く食うなぁ」
    「うん。ガツガツ……」
     既に食事を済ませたバートとフェリオが、シリンの周りに築かれた皿の山を呆れた顔で眺めていた。
    「水飲むか?」
    「モグモグ、うん」
     フェリオの差し出した水を、シリンはひったくるように受け取って飲み干す。
    「んはー、美味しいわぁ」
    「そっか。……もうそれくらいにしとけって。『腹八分目』って言うだろ」
    「ん? ……んー、うん」
     フェリオに諭され、シリンは自分の腹に手を当てる。
    「せやな、もーこんくらいにしとこかなぁ。あ、もう一杯水もろてええ?」
    「おう。……おーい、店員さーん」
     フェリオが側を通りかかった店員に声をかけ、水を頼む。
     その間に、バートが今後の予定を話し始めた。
    「それで、だ。今日、明日、それから明後日まで、このヴァーチャスボックスで情報収集を行う。
     この街は俺たちがやって来たウエストポート、それと現在北海で起こっている戦いにおける兵站(へいたん)活動の最重要地点となっているノースポート、この央北二大港の物資集積地になっている。
     それだけに情報も多く集まり、ここでの情報収集は今後の活動に大きく寄与するはずだ」
    「……」
     バートの話に、フェリオはうんうんとうなずいている。
     が、シリンはきょとんとした顔で、店員から受け取った水を飲んでいる。それを見て、バートが尋ねる。
    「シリン」
    「あい」
    「今の話、分かったか?」
    「ううん」
    「……フェリオ、説明してやれ」
     バートは頭を抱え、フェリオに投げた。
     フェリオは頭をポリポリかきながら、シリンに優しい口調で、ゆっくりと説明する。
    「えっとな、まあ、この街は二つの大きな街から、色んな物が集まってくるんだ」
    「うん」
    「で、情報も集まってくる。それは分かるよな?」
    「うーん」
    「……えーと、色んな物が集まるだろ。それを運んでくるヤツも、一杯集まるわけだ。それから、集められた物を買いに来るヤツもあっちこっちから大勢来るから、それだけ央北各地の色んな話が集まるわけだ。分かったか?」
    「あいあい」
    「んで、これからオレたちが戦うコトになる殺刹峰の情報も、誰かが持ってるかも知れない。それを今日から3日間探すってワケだ」
     フェリオの説明に対しても、シリンは首をひねる。
    「何でわざわざ、そんなん調べなアカンのん? 敵んトコぱーっと行って、ぱぱっと倒せばええやん?」
    「……」
     無言で二人の様子を眺めていたバートが、フェリオをにらんでくる。フェリオは冷汗を流しながら、もう一度説明した。
    「あのな、シリン。オレたちはまだ、殺刹峰のアジトがドコにあるのかさえ分かってない状態なんだよ。そんな状態じゃ、倒すも何も無理だろ?」
    「あー、そーなんかー」
    「……フェリオ、俺はもう心が折れそうだ」
     ずっと押し黙っていたバートが、机に突っ伏した。

     ともかく三人は情報収集のため、街中に繰り出した。
     辺りの店に立ち寄って品物を物色しつつ、殺刹峰の重要人物であるオッドのことなどを、それとなく尋ねてみる。
    「なあ、この辺で変な『猫』を見なかったか? オカマっぽい、派手な奴なんだが」
    「いやー、見てないなぁ」
    「そっか。じゃあさ、この近くに怪しい場所とかは無いか?」
    「うーん、ぱっとは思いつかないなぁ。お客さん、何でそんなこと聞くの?」
    「いや、ちょっと人探しをな。邪魔したな」
    「まいどー」
     店を出たところで、シリンが尋ねてきた。
    「なぁなぁ、何であんな回りくどい聞き方するん? 『殺刹峰ドコにあるか知りませんかー』でええやん」
    「お前なぁ……」
     バートが心底うんざりした顔で説明する。
    「俺たち公安だってここ数年で、ようやく名前や存在を確認した組織だぞ? そこらの店屋が知ってると思うのか?」
    「あー」
     だが、シリンは納得しない。
    「でも、ウチが前に働いてた赤虎亭みたいに、情報を集めてる店もあるんやない? そーゆートコ探したら……」
    「そう言うところは、『一見(いちげん)』の奴にはそう簡単に情報を売ったりしない。信用できない奴にうっかり情報をばら撒いたら余計な混乱を生むし、店の信用にも関わるからな」
    「そっかー」
    「だからこう言う、地道で回りくどい聞き方をしなきゃいけないんだよ。分かったか、シリン?」
    「あいあい」
     にっこり笑ったシリンを見て、バートはようやくほっとした顔をした。
    「よし、それじゃ……」
     気を取り直して情報収集を再開しようとしたところで、シリンが提案した。
    「そんならやー、『殺刹峰のヤツらが集まってる場所知りませんかー』って聞いたら……」「があああーッ!」「ふあっ!? はひふんへんひゃ、ひゃーほ!?」
     こらえきれなくなったらしく、バートはシリンの頬を両手でひねりつつ、怒りの咆哮を挙げた。

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    2016.07.18 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「蒼天剣」における金火公安は、
    日本で言う「公安調査庁」と「警察庁」、
    「内閣調査室」を合わせた存在となっています。
    特にジュリアたち属する「第一調査チーム」は、金火狐総帥の直属。
    半端な刑事ドラマよりも断然、しつこい人たちです。

    NoTitle 

    公安は確かに付回されると厄介な存在ですよね。未だに日本の公安調査庁も所在は曖昧なままですし、職員も幹部以外の職員は非公開ですからね。最低でも10年近くは追い回されると聞くので・・・結構面倒な団体ですよね。そういう組織には。
    • #647 LandM(才条 蓮) 
    • URL 
    • 2011.12/23 08:01 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle 

    騒々しくて、そこそこ強くて、機転の利く人たち。
    確かにうってつけですね。

    NoTitle 

    わたしが軍師だったらこの三人は囮部隊にするところですにゃー。

    危険な任務ですけど、こいつらにはぴったりであります。

    うむむ。
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