「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・藍色録 3
晴奈の話、第332話。
お調子者のカメレオン。
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3.
「エラン」と青い髪の猫獣人は、晴奈たちを前にして硬直している。
「……何でばれたんだ?」
「わたくしが良く見知っているエランは、左利きですわ」
フォルナは左手を挙げ、説明する。
「一昨日、一緒に食事をした時。わたくしの左に座っていたあなたと、手がぶつかりました。左利きのエランなら、手が当たるはずがありませんもの」
「……そこか、くそっ」
「エラン」は舌打ちし、帽子を地面に叩きつける。その素行の悪さは、どう考えてもエラン本人ではない。
「もう一度聞かせていただきますわ。あなたは、誰?」
「……そこの猫侍さんなら知ってるさ。昔、戦ったことがあるからな」
「エラン」は地面に叩きつけた帽子を拾い直す。
「何?」
だが、晴奈にはその男の正体が分からない。
「私と、戦ったと?」
「そうだよ、忘れたのか? ……ああ、こんなハナタレ坊ちゃんの顔じゃあ、分かんねーよな」
そう言って「エラン」は顔で帽子を隠した。
「……ほらよ、これで思い出しただろ?」
帽子をどけた顔は、央南人じみたエルフの顔だった。それを見た晴奈の脳裏に、古い記憶が蘇ってきた。
「……見覚えがある。そうだ、確か篠原一派と戦った時に見た覚えがある。名前は、……柳、だったか」
「ヒュー、覚えててくれたか。嬉しいねぇ。……でも、それも偽名だ」
「エラン」はまた、顔を隠す。今度は篠原の顔になった。
「なっ……」
「俺は何者でも無い。誰でも無い」
また顔を変える。今度は天原の顔になった。
「……誰にでも化けられる。擬装(カモフラージュ)できる」
天原の顔でニヤリと笑い、また顔を隠す。
「人は俺を、『カモフ』と呼ぶ」
今度は晴奈の顔になった。それを見た晴奈は憤り、声を荒げる。
「ふざけるなッ! 私の顔でしゃべるな!」
「ククク……。『ふざけるなッ! 私の顔でしゃべるな!』」
「なに……!?」
カモフが叫んだのは、つい先程晴奈が怒鳴ったのとまったく同じ言葉と声だった。
「どうだ、驚いたろ? 俺は一度見た奴なら、誰にでも化けられるんだ」
カモフは依然、晴奈の姿でニタニタと笑う。その仕草に、晴奈の怒りは頂点に達した。
「ふざけるなと……、言っただろうがッ!」
一足飛びに間合いを詰め、カモフに斬りかかろうとする。
が、それまで傍観していた青い「猫」が、晴奈の前に立ちはだかった。
「ここで動けば、ろくなことにならないと思いますけど」
「何だと?」
青猫は涼しげな青い瞳を晴奈に向け、静かになだめる。
「エランさんは、まだ生きてらっしゃいます。けど、ここで下手なことをすれば、死んでしまうかも知れません。それでもいいと仰るなら、僕は退きますけど」
「……くっ」
晴奈は怒りを抑え、元の位置に戻る。その間も、カモフは晴奈の姿でくねくねと動き、挑発している。
「『あたし、セイナ、とっても、かっこよくって、かわいい、サムライちゃん、みたいな』」
「貴様ああ……ッ」
晴奈は顔を真っ赤にして怒っている。流石に見かねたらしく、青猫がカモフを諭した。
「カモフ、話が進みません。それ以上ふざけていたら、僕が怒ります。それでもいいなら、存分にセイナさんを挑発してもいいですけど」
「……すんません」
青猫が一言たしなめただけで、カモフはすぐに黙った(依然、晴奈の姿であるが)。
「困りましたね、それにしても。まさかこんなに早く、カモフの正体がばれてしまうなんて思いませんでした。
まさかこのまま、僕たちの計画に付き合ってもらうなんてできないでしょうし、かと言ってこのまま帰還すれば、ドミニク先生から怒られるでしょうし」
青猫の独り言を聞き、バートが反応する。
「ドミニク……! やっぱりいるんだな、ドミニク元大尉が」
「……おっとと」
青猫は困った顔で、口を隠した。
「いけないいけない。ついしゃべりすぎました。……どうしましょうかね、本当に」
「提案がありますわ」
フォルナが一歩前に出て、青猫と対峙する。
「何でしょうか?」
「わたくしたちと手を組めば、解決しますわ」
「え……?」
フォルナは目を丸くする青猫に構わず、とうとうと語る。
「わたくしたちはこのまま、あなた方の計画に乗せられた振りを続けます。それなら、ドミニク元大尉のお怒りを受けずに済むでしょう? その代わりに、エランの無事と情報提供をお願いしたいのですけれど」
「……あの、確かお名前、ファイアテイルさんでしたよね。
ファイアテイルさん、勘違いされては困ります。別に、あなた方の提案を呑まなければいけない、と言うことは無いんですけど」
青猫は困った顔で、フォルナとの距離を詰め始めた。
「だってやろうと思えば、あなた方をここで、3、4人殺すことも可能なんですから。下位の人間と交渉なんて、する意味がありませんよ」
青猫はそっと、フォルナの顔に手を伸ばしてきた。
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「エラン」と青い髪の猫獣人は、晴奈たちを前にして硬直している。
「……何でばれたんだ?」
「わたくしが良く見知っているエランは、左利きですわ」
フォルナは左手を挙げ、説明する。
「一昨日、一緒に食事をした時。わたくしの左に座っていたあなたと、手がぶつかりました。左利きのエランなら、手が当たるはずがありませんもの」
「……そこか、くそっ」
「エラン」は舌打ちし、帽子を地面に叩きつける。その素行の悪さは、どう考えてもエラン本人ではない。
「もう一度聞かせていただきますわ。あなたは、誰?」
「……そこの猫侍さんなら知ってるさ。昔、戦ったことがあるからな」
「エラン」は地面に叩きつけた帽子を拾い直す。
「何?」
だが、晴奈にはその男の正体が分からない。
「私と、戦ったと?」
「そうだよ、忘れたのか? ……ああ、こんなハナタレ坊ちゃんの顔じゃあ、分かんねーよな」
そう言って「エラン」は顔で帽子を隠した。
「……ほらよ、これで思い出しただろ?」
帽子をどけた顔は、央南人じみたエルフの顔だった。それを見た晴奈の脳裏に、古い記憶が蘇ってきた。
「……見覚えがある。そうだ、確か篠原一派と戦った時に見た覚えがある。名前は、……柳、だったか」
「ヒュー、覚えててくれたか。嬉しいねぇ。……でも、それも偽名だ」
「エラン」はまた、顔を隠す。今度は篠原の顔になった。
「なっ……」
「俺は何者でも無い。誰でも無い」
また顔を変える。今度は天原の顔になった。
「……誰にでも化けられる。擬装(カモフラージュ)できる」
天原の顔でニヤリと笑い、また顔を隠す。
「人は俺を、『カモフ』と呼ぶ」
今度は晴奈の顔になった。それを見た晴奈は憤り、声を荒げる。
「ふざけるなッ! 私の顔でしゃべるな!」
「ククク……。『ふざけるなッ! 私の顔でしゃべるな!』」
「なに……!?」
カモフが叫んだのは、つい先程晴奈が怒鳴ったのとまったく同じ言葉と声だった。
「どうだ、驚いたろ? 俺は一度見た奴なら、誰にでも化けられるんだ」
カモフは依然、晴奈の姿でニタニタと笑う。その仕草に、晴奈の怒りは頂点に達した。
「ふざけるなと……、言っただろうがッ!」
一足飛びに間合いを詰め、カモフに斬りかかろうとする。
が、それまで傍観していた青い「猫」が、晴奈の前に立ちはだかった。
「ここで動けば、ろくなことにならないと思いますけど」
「何だと?」
青猫は涼しげな青い瞳を晴奈に向け、静かになだめる。
「エランさんは、まだ生きてらっしゃいます。けど、ここで下手なことをすれば、死んでしまうかも知れません。それでもいいと仰るなら、僕は退きますけど」
「……くっ」
晴奈は怒りを抑え、元の位置に戻る。その間も、カモフは晴奈の姿でくねくねと動き、挑発している。
「『あたし、セイナ、とっても、かっこよくって、かわいい、サムライちゃん、みたいな』」
「貴様ああ……ッ」
晴奈は顔を真っ赤にして怒っている。流石に見かねたらしく、青猫がカモフを諭した。
「カモフ、話が進みません。それ以上ふざけていたら、僕が怒ります。それでもいいなら、存分にセイナさんを挑発してもいいですけど」
「……すんません」
青猫が一言たしなめただけで、カモフはすぐに黙った(依然、晴奈の姿であるが)。
「困りましたね、それにしても。まさかこんなに早く、カモフの正体がばれてしまうなんて思いませんでした。
まさかこのまま、僕たちの計画に付き合ってもらうなんてできないでしょうし、かと言ってこのまま帰還すれば、ドミニク先生から怒られるでしょうし」
青猫の独り言を聞き、バートが反応する。
「ドミニク……! やっぱりいるんだな、ドミニク元大尉が」
「……おっとと」
青猫は困った顔で、口を隠した。
「いけないいけない。ついしゃべりすぎました。……どうしましょうかね、本当に」
「提案がありますわ」
フォルナが一歩前に出て、青猫と対峙する。
「何でしょうか?」
「わたくしたちと手を組めば、解決しますわ」
「え……?」
フォルナは目を丸くする青猫に構わず、とうとうと語る。
「わたくしたちはこのまま、あなた方の計画に乗せられた振りを続けます。それなら、ドミニク元大尉のお怒りを受けずに済むでしょう? その代わりに、エランの無事と情報提供をお願いしたいのですけれど」
「……あの、確かお名前、ファイアテイルさんでしたよね。
ファイアテイルさん、勘違いされては困ります。別に、あなた方の提案を呑まなければいけない、と言うことは無いんですけど」
青猫は困った顔で、フォルナとの距離を詰め始めた。
「だってやろうと思えば、あなた方をここで、3、4人殺すことも可能なんですから。下位の人間と交渉なんて、する意味がありませんよ」
青猫はそっと、フォルナの顔に手を伸ばしてきた。
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「左利き~」のくだりは、僕の体験談です。
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2016.08.04 修正
「左利き~」のくだりは、僕の体験談です。
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2016.08.04 修正
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誰でもない。。。ということはありますよね。
忍びにしても、そうですよね。
かのシャーウッドのロビン・フットも集団での名前であって、個人の名前はなかったですからね。
忍びにしても、そうですよね。
かのシャーウッドのロビン・フットも集団での名前であって、個人の名前はなかったですからね。
- #795 LandM
- URL
- 2012.05/01 09:45
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実体が無い、というのはこれ以上無いくらいの秘匿性を有しますからね。