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8/17/2024

フェラーリ

 フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリの人生における、公私に問題を抱え起死回生をかけて挑んだ運命のミッレミリア公道レースに参戦した1957年にスポットを当てたドラマ。エンツォ一家の愛憎劇と同時にフェラーリのドライバーになりたくて彼のもとにやってきたドライバー、デ・ポルターゴの悲劇的なレース事故という事実をもとに描かれる。

 マイケル・マンの作品は人物描写がどの作品も見応えがあるけれど、本作もしかり。熾烈なエンジン開発競争が繰り広げられていたなかのテスト走行で、幾人ものドライバーが事故に見舞われても割り切っていた風の剛腕エンツォが前年に病死した跡継ぎたる愛息の墓前でハラハラと涙を流す。冷めきった夫婦関係の上に愛人に息子を産ませていたことを偶然から知ることになり、その逆鱗にふれることを誰もが恐れていた妻ラウラが最後に見せる条件付きの「助け舟」のシーンには唸った。というか始終不機嫌そうで激しいラウラを演じたペネロペ・クルスはここまでダークなイメージもあまり観たことがない気がするのだけれど、圧倒的にうまい。
 エンツォのストーリーに絡めて語られるデ・ポルターゴは有名な「Kiss of Death」の写真は見たことがあったけれど、このような背景があったとは全く知らず事故シーンもショッキング。恋人への手紙以外にももう少し彼自身を描いたエピソードがあってもよかったようにも思ったが配分的にはこれがギリギリか。突然の事故に巻き込まれてしまった沿道の人々の、その直前まであった普通の団らん生活が断ち切られるさまも辛い。

 「ハウス・オブ・グッチ」に続いてまたも実在のイタリア男役のアダム・ドライバーは良くも悪くもそつない感じではあったけど、この作品に関してはとにかくペネロペの巧さが際立った。
 レースシーンは市街地レースは迫力十分だったけれど、強いていうならもっとたくさんみたかったかな。

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原題:Ferrari 監督:マイケル・マン 2023年製作
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、ガブリエル・レオーネ
2024.8.7鑑賞 @TOHOシネマズシャンテ


8/14/2024

未来惑星ザルドス


気がつけば祝製作50周年!
リバイバル上映の劇場予告で空飛ぶ顔面石像の絵面になんじゃこりゃ&さらにあのショーン・コネリーの辮髪風ロンゲ三つ編み&赤フン姿に驚愕し、これはもしや自分好みのバカ映画!?と大いに期待したものの、公開時には残念ながら劇場に行けなかった本作をレンタルで見た。

 2239年の未来社会ボルテックス。未来社会とはいっても舞台になるのはいかにも風光明媚なアイルランドとかスコットランド風の自然あふれる湖畔の村。そこに住まうのは「獣人」と呼ばれる賤民を酷使し作らせた食料を空飛ぶ要塞ザルドスを通じて調達し、優雅に生きる不老不死の人々「エターナルズ」。自分たちはなにもしなくても年も取らない=寿命も来ないから子孫を残すような生殖活動に励む必要もない。毎日あははおほほと笑って過ごしているかと思いきや、仲間の調和を乱す思想を抱く者はペナルティとして加齢を負わされ、不老不死の館を追われることになる。そんな彼らのもとに獣人たちの監視役でありその人口調整のためハンティングを生業とする「撲滅戦士」なる集団から“ゼッド”という男が、エターナルズの秘密を解明しようと単独乗り込んでくる。

…というのが大まかなお話なのだけど1度みただけでは正直わからなくて、続けて監督のコメンタリーをつけながらもう一度駆け足でみた。なんとなく物語は追えたけど、いろんなところがやっぱり「?」。TSエリオットやトールキンの影響があるとのことでセリフにも引用されているなど不思議な世界観は感じられるのだけど、わかるようで今ひとつわかっていない。冒頭にザルドスを作ったリーダーの前口上のようなものがあって、コメンタリーでの監督いわく「本編があまりにも難解だということで急遽この部分を足したのだけど、、、」とのことだったけど、ないよりは親切程度か? でもまあ、ショーン・コネリーのほぼ全編フンドシ一丁ワイルドなビジュアルが強烈過ぎなのと、さすがにレトロは感じるけれど工夫をこらされたセットに美しいカメラワーク、あと寿命を取り戻した“彼ら”が塵に還るラストシーンは非常に印象的で、どこかクセになるのも納得。早すぎた怪作?

 監督のコメンタリーではそこもうちょっと解説してほしいんだけどという部分もあるんだけど(原作脚本もブアマン自身が手掛けている)、撮影中のコネリーにまつわる ①監督宅に滞在中、地元のサッカー試合に観戦に行ったらば観客にバレてどっと取り囲まれた、②坂道で荷車ひいたり花嫁衣装変身を嫌がったので監督自ら説得した、③ 最後のシーン2度の撮り直しに(特殊メイクも大変で)ついにブチ切れ激怒事件!などなどエピソードがなかなかおちゃめで楽しい。
 若き日のシャーロット・ランプリングは妖精のように美しく、でもってボンド引退直後の撮影になったというコネリーの銃を構える姿はやっぱり様になっててかっこいい。 なんだか釈然としないところが妙に気になるのも含め、またコメンタリーも聞きたいので、もしかしたらソフト買ってしまうかも。←(追記)ソフトも原作も買っちまった!

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原題:Zardoz 監督:ジョン・ブアマン 1974年製作
出演:ショーン・コネリー、シャーロット・ランプリング、セーラ・ケステルマン、ジョン・アルダートン

8/13/2024

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン


 アポロ11号の月面着陸映像は実は捏造されたものだった、とかいう話は何年かおきに話題になるし、いまだ捏造説を信じている人がいるとかいないとかいうけれど、そんな異説というかゴシップを逆手に取ったかのような本作。「ライトスタッフ」でおなじみのガス・グリソムが悲劇に見舞われたアポロ1号の事故の件もうまく組み込まれていることから、ひょっとして実話?とも一瞬思ったけれどオリジナル脚本ということでフィクションらしい。

 お互い好意を抱きつつも仕事で反目し合うスカジョ演じるやり手PR担当者とテイタム演じるお硬い技術屋の単なるロマンスにとどまらないストーリーがよい。NASAのイメージアップを狙ったPR展開だったり、対ソ連絡みで絶対に失敗できない政府の作戦戦略としての「フェイク月面映像」バックアップ体制が取られたというのも現実にも十分ありえたのでは?と思えるゆえにとても楽しめた作品だった。お話、キャスティングに黒ねこちゃんも◯。

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原題:Fly Me to the Moon 監督:グレッグ・バーランティ 2024年製作
出演:スカーレット・ジョハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン
2024.8.8 鑑賞 @109シネマズ二子玉川


8/12/2024

デューン/砂の惑星(1984)

リンチ版4Kリマスター版を観てきた。
やっぱりヴィルヌーヴ版鑑賞後に再見したときと
感想は変わらないのだけれど進行猛スピードで端折ってる感。
原作でも後半の戦の展開は意外と早いと思ったけど語りで進むスピード感マシマシ。
少し前に記事になっていた未公開シーンを収録した版ではないけれど
でもビジュアルはそれなりに頑張っているし、世界観も遜色はないし
これはこれでありだと思う。いまだから言えるのかもしれないけども。

ヴィルヌーヴが撮るらしいこのあとのエピソード
「砂漠の救世主」編もなによりの楽しみだね。
(→その後続編については製作には関わりたいが自身の監督はないだろうと発表あり。
 PART1,2で原作の相当分は完結してるし、続編は10年以上もたった後の物語だし
 とのこと。まあその通りではあるんだけどちょっと残念。)

2024.8.9鑑賞 @109シネマズプレミアム新宿



  ヴィルヌーヴのPART2も観てきたけれど早くもリピートするぞー!と思ったところで、そういえばリンチ版を録画してあったっけと思い出し、改めて観てみた。
 公開当時はリンチの映画だからというよりも、Stingが出てるしサントラをTOTOが手掛けていたことからこれは観るべし!と気合を入れて出かけたのであった。たしか吉祥寺の映画館。だけど「なんかついていけなかったかも、原作読まなきゃ」と敗北感を味わって帰ってきてから早ウン十年。今回ヴィルヌーヴ版2作を観てからの再見でようやくお話がつながってスッキリ開通した感じ。原作はもちろん同じであるから登場人物もストーリーは一緒なのだけれど、ストーリーがポールの語りで進んでいくのはさすがに端折り感は否めず、初公開時についていけなくても無理はなかったんだなあとミョーに納得。ヴィルヌーヴ版の1と2をリンチ版は1本にしてあるのでそりゃ時間足りないよなあと思ったり(PART2ですら分割してもっと長くても良い?と思ったし)。なので改めて観てみると、お話が猛スピードで進んでいくだけで、昔浴びた酷評ほどリンチ版だって悪くはないような、とやっぱり思う。技術は流石に時代を感じるけど、「風船デブ」こと宙飛ぶハルコンネン男爵やギルドの使者の強烈なシュールさやら今回も踏襲されている(?)それぞれ衣装の造形などビジュアルだって悪くないし、キャストだって地味に豪華などなど。比べてみると楽しめると思う。

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原題:DUNE 監督:デヴィッド・リンチ 1984年製作
出演:カイル・マクラクラン、ショーン・ヤング、フランチェスカ・アニス、ユルゲン・プロホノウ、ディーン・ストックウェル、パトリック・スチュワート、マックス・フォン・シドー、ケネス・マクミラン、スティング

7/09/2024

マッドマックス:フュリオサ

 今頃鑑賞。「怒りのデスロード」も実は劇場では観ていなくて、テレビで見たときにやっぱ劇場向きだったなあと後悔。なので今回は遅めとはいえ出かけた。
 前作の全編からぐぉー放たれる「なんじゃコリャ感」の狂いっぷりはいちいちインパクトありすぎたので、今回はそのへんを一手に引き受けたのがクリヘム将軍ディメンタスだったんでしょうけれど(イモータンたちも狂ってるがそれを凌駕しているというか)、純度の高い復讐譚。痛いところは目をつぶってみれてないためスッキリ爽快とはいかないけれど、赤土の土煙とともに血湧き肉躍る2時間半でありました。エンドクレジットのつながりも気が利いていたし。で、やっぱりデスロード、続けてみたくなるけれど。

 幼いフュリオサのアリーラ・ブラウンさんもアニャさんも、母親役のチャーリー・フレイザーさんもかっこいい。フュリオサを助ける彼は初代マックスを彷彿とさせるものがあった。

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原題:Furiosa: A Mad Max Saga 監督:ジョージ・ミラー 2024年製作
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・バーク、ラッキー・ヒューム
2024.7.8鑑賞 @109シネマズ二子玉川


7/08/2024

フェーム


 1970年代の後半、ニューヨークはマンハッタンの芸術専門学校を舞台に、成功を夢見て入学してきた若者たちの4年間を追ったポートレイト的群像劇。

 演劇やダンス、音楽に通常の授業など様々なアートを総合的に学ぶ学校ではキャスティングのオーディションのように選抜試験が行われ、出自も人種も多様な生徒たちが最終的に合格する。はじめは人見知りしてなかなか周りに打ち解けられない子、ダンスは抜群にうまくても通常の授業についてこられない子、俳優一家の2世や口達者なおちゃらけ者も4年のうちに学内学外で様々な体験をするうちに成長していく。出てくるキャラみんなサクセス一辺倒ではなくてそれぞれの個人の光と影が描かれる部分がやや荒削に見える部分も含めてドキュメンタリータッチと言われる所以なのかもしれない。 アラン・パーカーが後年撮る『コミットメンツ』は同様の音楽群像劇といっていいだろうけれど、もう少しステップアップというか洗練昇華されていた記憶。本作はその後TVシリーズにもなったそうだけど、一人ひとりのエピソードを描くにはたしかにドラマが作りやすそうにも思う。

 テーマ曲の「Fame」も大ヒットしたアイリーン・キャラは「Out here on my own」のシーンもよかったけど、もっと大々的にフィーチャーされているのかと思いきや夢を追うあまりの落とし穴的な部分を描いて大団円に向かうのにはちょっと驚いた。
 舞台になった The High School of Performing Artsは実在の学校で、過去にはライザ・ミネリやジェニファー・アニストンにスザンヌ・ヴェガなど著名なスターも在籍していたとのこと。

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原題:Fame 監督:アラン・パーカー 1980年製作
出演:アイリーン・キャラ、リー・キュレーリ、モーリーン・ティーフィ、ポール・マクレーン、バリー・ミラー、ジーン・アンソニー・レイ
2024.7.7鑑賞 @TOHOシネマズ日本橋 午前十時の映画祭


4/30/2024

マエストロ その音楽と愛と


 客演指揮者の急病によって代理で立ったステージが評判をよび、成功への階段を歩み始めた若きレナード・バーンスタインと、その頃に出会って以来 生涯彼を傍で支え続けた妻フェリシア・モンテアレグレがともに歩んだ日々を描いた物語。

 バーンスタインの私生活のことはほとんど知らなかったので冒頭から半分驚きもしつつ見入ってしまった濃厚なドラマ。バーンスタインという人はいい意味、破天荒で男女分け隔てない人たらしだったんだろうなとは思うけど、なによりフェリシアが出来すぎなまでにすごい。女優としての活動に加え、本編にはあまり描かれていなかったようにも思うけれど様々な社会活動に積極的にかかわりながら(たぶんそのへんはアメリカでは誰もが知っている前提なのだろうか?)、母親として3人の子を育て、家庭を守り、また世界的著名な指揮者・作曲者の夫を見つめ続けたのだから。どんなことがあろうと彼女に手を振り切ることをさせなかったバーンスタインの才能や魅力も確かに間違いなくあったのだろうけれど、確固たる自信に基づく忍耐、包容力というか…。彼女の人生をもっと知りたいと思った。

 監督も手掛けたブラッドリー・クーパーは熱演も熱演で、指揮まで学んで取り組んだと言うだけあってマーラーの2曲の演奏シーンは震えるほどに感動。ドラマパートでもいかにも「人たらし」的で魅力的。フェリシアを演じたキャリー・マリガンもとてもうまかった。

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原題:Maestro 監督:ブラッドリー・クーパー 2023年製作
出演:キャリー・マリガン、ブラッドリー・クーパー、マット・ボマー、マヤ・ホーク
Netflicks鑑賞

4/21/2024

ビー・ジーズ 栄光の軌跡


 ビー・ジースことバリー、ロビン、モーリスの3兄弟のキャリアと活動をたどるドキュメンタリー。

 ビー・ジースというと「マサチューセッツ」に映画『小さな恋のメロディ』の「メロディ・フェアー」の美しい旋律や『サタデー・ナイト・フィーバー』のサントラが一番に思い出されるけれど、本作ではその長いキャリアの中での何度か起きた音楽性の方向転換の節目やサウンド作りに関するメンバーや関係者の証言がとても興味深かった。また著名な後進アーティストたちから語られる彼らのサウンドや兄弟ユニットだからこそのメリットや難しさなどなども。なんといっても「彼らはビートルズにも匹敵する偉大なサウンドメーカー」「兄弟ならではの共鳴があるんだ」と大絶賛を送ってるのがノエル・ギャラガーだというのがなんとも。だったら君もリアムと仲直りすればいいのに(苦笑)。でも口では絶対ありえないとか言っていても、再び一緒に活動再開する日もそう遠くはないのかも…?と脱線するぐらいあのシーンには吹いた。
 あとクラプトンとビー・ジーズの親しい交流もちょっと意外だった。そう言えば両者とも赤ベコ(違)がトレードマークのRSOレーベルだったなあとは思ったけど、60年代から親交が続いていたとは知らなかった。「461オーシャン・ブールバード」のジャケットになってるあのスタジオをその後ビー・ジーズが使ってたとは!
 しかし映画の世界的な超メガヒットと同時にビー・ジーズも爆発的なブームになったけれど反動のバッシングの渦がそこまでひどかったことも知らなかった。でも彼らが表だった活動を控えていた時期に、優れたソングライティングの楽曲提供で活路を見出していったことはいい方向に働いたのじゃないだろうか。彼らのオリジナルはもちろん、あとを追ってデビューした末弟アンディの曲にしても、バーブラ・ストライサンドやディオンヌ・ワーウィックetc.etc.にしてもステキなナンバーが目白押しなことを思えば、ノエルが言うように「ビートルズに匹敵するソングライター」というのも納得だ。
 ただ、やはりそういった華々しい成功や素晴らしい才能と引き換えとは言いたくないけれど、アンディに続きモーリス、ロビンとあまりにも早く世を去ってしまったのは本当に辛い。最後、バリーが「成功なんていらないから弟たちに会いたい」と話すシーンは観ていてとても胸が痛む。ちなみに映画の英語原題は彼らが初めて全米ナンバー1を記録した1971年のシングル「傷心の日々」のタイトル。なんか皮肉にも聞こえるけれど、バリーには長生きしてほしい。
観終わってからビー・ジーズの多彩なアルバムを聴き続けていることはいうまでもない。

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原題:The Bee Gees: How Can You Mend a Broken Heart
監督:フランク・マーシャル 2020年製作
出演:ビー・ジーズ、エリック・クラプトン、ノエル・ギャラガー、ジャスティン・ティンバーレイク、クリス・マーティン etc.

4/10/2024

アイアンクロー

 “鉄の爪”の異名をもった伝説的レスラー、フリッツ・フォン・エリックの息子たちとして1980年代にプロレス界で活躍したケビン、デビッド、ケリー、そしてマイケルの兄弟と父親フリッツらフォン・エリック一家の絆と悲劇を描いた物語。

 彼ら兄弟が日本のリングに登場した80年代は自分もリアルタイムでときどきテレビや雑誌でプロレスを追っていたので、フォン・エリック家がデビッドの死後もケリーの事故など不幸に見舞われたことはなんとなく知っていたけれど、自分が知っていた3兄弟以外にも弟たちがいて(マイケルは知らなかったのと、映画にはなぜか描かれていないけれど彼の下にもう一人クリスという息子がいる)その彼らもプロレスの道に進んだものの自死を選んでいたことは知らなかった。ケリーが亡くなっていたのもずいぶん後で知ってとてもショックだった。
 監督はインタビューでも家父長制・アメリカの強い父親像テーマを内包していると語っている。父親のフリッツが息子たちをチャンピオンにしたいという夢というか野心を持たなければ悲劇は回避できたのだろうか? 後付の時代目線でフリッツに対するいろいろな批判もわかるけれど正直よくわからない。
 映画化にあたって監督がケビンに話を持っていったとき、「一家を襲った悲劇の物語ではなく家族の物語にしてほしい」とリクエストされたそうだけれど、それが劇中に何度も出てくる「自分たちには家族が一番大事」というセリフだったり、冥府で兄弟たちが再会するシーンやケビンと彼の子どもたちのやり取りのシーンに反映されているのだろう。その2つの場面はとても優しく心に残る。

 フォン・エリック一家に実際に起きた出来事はあまりにも不幸すぎたけれど、ケビンが今も妻と一緒に元気でいて、子どもたちや孫たちなど大勢の家族たちに囲まれて幸せに暮らしているということを知ることができたのはなによりの救いだった。

 ザック・エフロンはじめ兄弟役の役者さんたちの体の作り込み方が驚くほどすごい。プロだなーと感嘆。ちょこちょこ登場する兄弟と対戦するレスラーたち、ブロディやレイスにフレアとかもビミョーに似ていて懐かしかった。そういえば監督がイギリスの方だというのもちょっと意外だった。イギリスと言えばダイナマイトキッドだよね

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原題:The Iron Claw 監督:ショーン・ダーキン 2023年製作
出演:ザック・エフロン、ハリス・ディキンソン、ジェレミー・アレン・ホワイト、スタンリー・シモンズ
@109シネマズ二子玉川 2024.4.8 鑑賞

 

4/08/2024

オッペンハイマー

 ひとりの原子物理学者として、研究、実験、実践したオッペンハイマーの複雑な生涯を描いた伝記映画。
 原爆の描かれ方/使われ方に対し 史実使われた側としては特別な感情、あまりに短絡的じゃないかと憤りの気持ちを抱くのは当然だけど、物語として描かれているのはそれそのものではなく作り出した彼自身の「生涯」。なので現状で本作が咎められるような要素はない。彼らが作りだしたものから生じた結果についての想いは、本編にも描かれていたと思う。

 後半はオッペンハイマーというより暴かれるストローズの物語といっても良さそう。私怨でそこまでするかいなって気もするけど、でもあの時代だったらおかしくないのかも。危うい時代の空気もまた核兵器同様今の時代にも通じるものがある。すべて地続き、と思うと背筋も寒い。

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原題:Oppenheimer 監督:クリストファー・ノーラン 2023年製作
出演:キリアン・マーフィ、ロバート・ダウニー・Jr、エミリー・ブラント、ケネス・ブラナー、ラミ・マレック、ケイシー・アフレック、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット

@109シネマズプレミアム新宿 4/7鑑賞

4/03/2024

WANDA ワンダ


 ペンシルバニアの炭鉱の町に暮らすワンダ。彼女に愛想を尽かし外に女を作って家を出ていった夫は裁判所に離婚を申し立てている。出廷の日、街へ出ていく金もないワンダは近所で石炭拾いをしている老人から小銭を借り、ヘアカーラーを巻いたまま裁判所へ出かけるが、夫の言い分に反論もせずあっさり結婚も子どもたちの親権も手放す。元の職場へ給料の支払いと再雇用を頼みに行っても「使えないから」とあしらわれて追い出され、バーで知り合ったセールスマンと行きずりの関係を持ってもことが済めば置き去りにされ、ひと休みのつもりで入った映画館では眠り込んだ隙になけなしのお金をすられてしまう。どこまでも踏んだり蹴ったりで八方塞がりのワンダだが、偶然入ったバーで強盗の場に居合わせたことからその犯人ミスター・デニスとの犯罪逃避行が始まる。

 ワンダは語られないその過去にも原因があるのかもしれないけれど、端から見れば失礼ながら怠惰なひとにも見える。今どきは何やらカテゴライズされる症状もあるかもしれないけれど、保守的な時代の目線からしたらいわゆる人並みのこともきちんとできない変わり者、というより単純にダメ人間にも見えてしまう。
 だけど、おそらく自分でも諦めてまわりに流されてきた彼女が犯罪にはからずも加担して自主的に動かざるを得なくなってしまったとき何かが変わる。ミスター・デニスと行動をともにしてからも従属的な関係は続いていたけれど、押し入った先の銀行支店長宅でミスター・デニスのピンチを救うべくとっさに銃を突きつけたあと、彼に「よくやった」と褒められたときの少女のようなその瞳の輝きが印象的だ。したこともない車の運転を任され、「役割」を与えられて決行するはずだった大きなヤマ。それが叶わなかったあと、彼女の心には何が残るんだろう。

 すべてが終わり見知らぬ女に誘われ同席したバーで空虚な表情を浮かべるワンダに様々な思いが浮かんでしまう、不思議なテイストの作品。時代的にも最後の突き放し感も「ニューシネマ」って単純に連想してしまうけれど、そこまでは乾ききっていないような、ほのかな温かさが感じられるような。ワンダと同様、多くは語られなくともミスター・デニスにしても強盗に手をそめざるを得ないわけがあったのだろうね、きっと。

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原題:WANDA 監督:バーバラ・ローデン 1970年製作
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ

3/14/2024

ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男


 『トップガン』のアイスマン役で世界的に人気が大ブレイクし数々の作品に出演、一昨年公開された『TG マーヴェリック』の同役での記憶も新しいヴァル・キルマーが、プライベートフィルムを織り交ぜながら自らの半生を振り返るドキュメンタリー。声を失った彼の代わりにナレーションを務めたのは息子のジャック。

 裕福な家庭に生まれ育ったヴァルは幼いときから兄と弟の3兄弟でファミリームービーの被写体となってきた。アメリカンキッズらしく西部劇の真似をしたりのびのび育った幼い兄弟の様子は観ていて微笑ましい。成長してからはヴァル自身も16ミリやビデオカメラを片手に日常の生活を記録してきた。両親や早くに亡くなってしまった弟のこと、後に共演者となるケリー・マクギリスと同窓になった演劇学校、参加した数々の作品撮影の模様やプライベート、そして現在の自分が語られる。
 演劇を志して学校に進んだヴァルは『ヒート』でのデ・ニーロやアル・パチーノ、映画自体も物議も醸した『DNA』でのマーロン・ブランドら演劇学校から飛び立った名だたる名優たちとの共演には心を踊らせたのじゃないだろうか。どちらかというとアクション俳優としてカテゴライズされてきた印象のある彼は、ときにエキセントリックなまでに役に入れこんでスタッフ等とぶつかり合いもしばしばあったというような記事も以前見かけたことがあったけど、どんなときにも真摯に向かい合い自分なりの作品世界とキャラクター理解で演じようとしてきた結果だったのだろうと思う。
 病に倒れる前に自ら脚本を執筆し全米各地で公演を続けてきた一人芝居のマーク・トゥエインの物語は、まさに彼の本領発揮というか本当に目指した集大成とも言うべき芝居だったのだろうけれど、道半ばで終わってしまったのはとても残念だ。「今は過去の出演作のファンミやイベントで笑顔を振りまいて稼いでるんだ、いい食い扶持だから」と語った寂しそうな笑顔が切なかった。たぶん製作の年代的にはこのドキュメンタリーのあとに『マーヴェリック』は撮られているはずだけど、ヴァルには今も元気に脚本を書いたりアートを作る活動をしていてほしい。

 ご多分に漏れず『トップガン』以降ではあるけれどヴァルの作品は比較的追いかけていたのでバックヤード部分も含めてとても興味深かった。プライベートで幸せにしてると思っていたジョアンヌとの結婚生活が破綻していたとは知らなかったけれど、見どころいっぱいのお宝映像の中でも特に『ドアーズ』『トゥームストーン』のシーンがわりとしっかり出てきたのが嬉しかった。実はヴァルの『バットマン』もかなり好き

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原題:Val 監督:ティン・プー、レオ・スコット 2021年製作
出演:ヴァル・キルマー、ジャック・キルマー(ドキュメンタリー)
U-NEXT鑑賞

3/08/2024

デューン 砂の惑星 PART TWO

 父を宿敵ハルコンネン家に殺害され母親とともに砂地へ逃げ延び、フレメンと行動をともにすることになったポール・アトレイデスがやがて伝説の救世主リザーン・アル・ガイーブとして民を率い、皇帝に戦いを挑む超大作SFの後編。
 前編の圧倒的な映像に圧倒された目には若干の慣れもあり、かつ物語の流れも速めな印象もあるけれど、今回も十分に迫力を楽しめた。帝国側と手打ちするために皇帝の娘イルラーンを娶る策に出るポールの眼差しと耐えるチャニの心が切ない。最後の展開はこのままチャニの物語になっていくような逞しささえ感じられたり。
 リンチ版でスティングが演じたフェイド・ラウサに扮したオースティン・バトラーのヴィランぷりも素晴らしい。ほか、やっぱり本作キャスティングがばっちり。
 ヴィルヌーヴはこのあとの小説続編も映画化したい希望を持っているとのことだけど、ぜひとも実現させてほしい。誰もみたことのない世界へ!

原題:Dune (PART TWO) 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2023年製作
出演:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、オースティン・バトラー、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、レア・セドゥ
@109シネマズ二子玉川、グランドシネマサンシャイン池袋

1/07/2024

ナポレオン

 ティーザーが出てきたときから期待大であったし、最初アウステルリッツやワーテルローのシーンがやっぱり配信の拙宅小さい画面でみるのはちょっと残念と思っていたので劇場公開になってよかったなあとその点は大満足。物語もジョゼフィーヌとの関係やら別れてからも交流があったとは知らなかったので興味深くはっ観られたけれど、でもやっぱりセリフが英語なのがミョーな違和感。しょうがないっちゃしょうがないけれど、やっぱりナポレオンなんだからと思わないでもなし。まあ、グラディエーターやグッチさんたちも英語しゃべってたけどやっぱりナポレオンなのだから。とはいってもホアキンの見た目はいかにもそれらしかったし、基本的にリドリー・スコットの歴史モノは面白い。

原題:Napoleon 監督:リドリー・スコット 2023年製作
出演:ホアキン・フェニックス、バネッサ・カービー、タハール・ラヒム、ルパート・エヴェレット
2024.1.6 鑑賞 @ホワイトシネクイント 

1/03/2024

カサンドラ・クロス

 多数の乗客が乗り込んだ北欧行きの大陸急行列車に、軍事目的で研究されていた謎の細菌に侵されたことを知らず逃走したテロリストが侵入したことから、その感染拡大を防ぎ、同時に事実を隠蔽するべく列車は戦後長らく廃線になっていた高架橋へと進路を変更させられる。処置を巡る米国軍事組織、その目的を隠されたまま実験場所を提供していた医療機関と何も知らされないまま移動する感染源となった列車の乗客たちとの攻防を描いたパニックサスペンス&国際的オールスタームービー。

 公開当時に続き2012年のフィルムセンター上映以来の3度目鑑賞。実際パンデミックの世を体験してしまった今となってはあり得ない??と思えるシーンも満載ではあるけれど、公開当時お子ちゃま心にも最終的な処置に関してアメリカ人ひどいなあとか、助かった人たちはどこに行くのかなとか、川に放置された遺体はどうなるのかなとか怖いよーと手に汗握って観た記憶。当時は「ラッタッタ」のソフィア・ローレンぐらいしか知らなかったけど、今思えばものすごい国際スターたちの共演に震える。

原題:The Cassandra Crossing 監督:ジョージ・P・コスマトス 1976年製作
出演:リチャード・ハリス、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、イングリット・チューリン、エヴァ・ガードナー、アリダ・ヴァッリ、リー・ストラスバーグ、マーティン・シーン、O・J・シンプソン
@TOHOシネマズ日本橋 2024/1/3鑑賞 
午前十時の映画祭にて

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ラッタッタをご存じない方のために

CMイタリア語しゃべってたんだ!と今ごろ気がつくウン十年後の自分。

11/03/2023

テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR

 テイラー・スウィフトのデビューから発売されたアルバムそれぞれの「時代」ごとにセッティングした約3時間にも及ぶステージを収録したライブ・フィルム。テイラーのステージといえば高騰するチケット代にも関わらず世界各地瞬殺でソールドアウトというのがお決まりのようだけど、そんななかなか実際に会場へ足を運べないファンのためにほぼまるっと収録されたかのような本作は、まるで本物のライブに参加しているように楽しめた。さすがに来日公演も観てみたくなったけど、当然のように時はすでに遅し。チケットは買えなかったのであった。残念

原題:Taylor Swift: The Eras Tour 監督:サム・レンチ 2023年製作
出演:テイラー・スウィフト(ライブ・ドキュメンタリー)
@109シネマズ二子玉川

8/17/2023

バックドラフト

 今頃の初見。消防隊の男たちのもっとガチな熱き友情の物語と思っていたので、放火犯を追うミステリー仕立ての展開が予想外に楽しめた(デニーロが出ているのも知らなかったので…。というかこんなにオールスターキャストだったとは)。
 カート・ラッセルの兄貴っぷりは血が上りやすいいかにもアイリッシュな?ところ、人情味あふれるアツさ、奥さんへの不器用なところ含めて全部持っていった感じ。対する弟ウィリアム・ボールドウィンのやさ男っぷりも好対照ではあったけど、元カノとのやり取りと彼女の立ち位置が結構重要なのに添え物っぽいところがちょっと残念。
 でも火事の炎はさすがアクション大作というの大迫力に、たしかにすごいと思った。一番の功労賞はメラメラべらべらと燃え盛る炎かも。

 父をなくした息子が成長して、という続編が出ているそうだけど、そっちはほとんど話題にならなかったよね? あとでチェックしてみよう。

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原題:Backdraft 監督:ロン・ハワード 1991年製作
出演:カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン、ロバート・デニーロ、スコット・グレン、ドナルド・サザーランド、レベッカ・デモーネイ、ジェニファー・ジェイソン・リー

@109シネマズ新宿 23023/7/23鑑賞
午前十時の映画祭 

7/05/2023

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

  インディものを劇場で観るのはなんとキーくんが出ていた2作め以来。ショーン・コネリーとリヴァー・フェニックスが出ていた3作めも、4作目(クリスタルスカル〜)は今回が4作目だとばかり思っていたほど無きものとしていたので、本当に約40年近くぶりの劇場鑑賞。…自分でも果てしなく昔過ぎてめまいがする。インディも年を取るわけである。

 さて本作。冒頭の30年代第二次大戦末期シーンでややピチピチしてみえるインディの風防はひょっとして以前に撮りためたのか(…そんなわけない)FXを駆使してハリソンのシワを…なんて不届きなことをまっ先に思ってしまったのであるけれど、インディが相変わらず追いかけているものがナチスが奪った財宝の中にあるということで一気に「レイダース」のあの頃に引き戻される。
 時は流れて60年代も後半、人類が初めて宇宙に飛び出した年にインディは勤務先の大学で定年退職の日を迎えた。若者はじめ街中が宇宙時代の到来に浮かれ騒いでいるのに、妻マリオンとの離婚が決定的になりふさぎ込む彼の元に、かつての研究仲間で冒険をともにしたバジルの娘ヘレナから、かつてインディとバジルがナチスに拘束された際手に入れたものの、その危険な力を危惧して葬ったアンティキティラのダイヤルを探していると相談を受ける。やがてヘレナがトレジャーハンターで様々な遺物のオークションで荒稼ぎしていることが判明するのだが、ダイヤルの行方を探す者がもう一人。それはかつてインディたちがナチスの強奪列車で遭遇し、とある野望を秘めて大戦後のアメリカで宇宙物理化学者として成功したフォーラーだった、というのが大まかなお話。
 失われたダイヤルを求めニューヨークからモロッコ、ギリシャ、シチリアへと続く旅は活劇アクションにあふれているけど、過剰すぎるバイオレンスシーンはなく時にコミカルな場面もはさみながら魅せられる。やがてダイヤルが稼働しその行き着いた先で見せるインディのこれまでにないほどの老いを感じさせる姿は少し寂しいけれど、決して不幸なことばかりではなく「知は力なり」という言葉が浮かんできた。そして本当の最後に訪れる(個人的には)びっくりな再会シーンではちょっとじんわり来てしまった。
 ハリソンの最後の活劇勇姿になるのかわからないけど、年齢に抗わないというかある意味等身大のヒーローの姿にこういうのもいいなと思い、ストーリー展開にもわくわく。大きなスクリーンで観て満足だったし、今更ながらだけど3,4作目も改めてきちんと見直したいと思ったのだった。


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原題:Indiana Jones and the Dial of Destiny
監督:ジェームズ・マンゴールド 2023年製作
出演:ハリソン・フォード、マッツ・ミケルセン、フィービー=ウォーラー・ブリッジ
@109シネマズ二子玉川 2023/7/4 


6/21/2023

TAR/ター


 ドイツの世界的名門オーケストラの首席指揮者として成功し、富も名声も手にしたリディア・ター。出版されたばかりの自著のプロモーションや、客員として招かれた音楽院でのゼミレクチャー、マーラー交響曲集の最後の1枚となるアルバムレコーディングに向けての楽団との練習など分刻みの忙しさのなか、同性のパートナーと養女と暮す私生活では娘の学校への送り迎えや離れでの作曲活動など充実した日々を送っていた。だがゼミに参加した生徒とのやり取り、レコーディング曲の演奏に対する解釈の違いから生じた副団長更迭、その後任や収録曲のソリストの人選など小さなトラブルが続き、そこにかつて関係があったらしき教え子の自死がマスコミの知るところになったことから、順風満帆だったリディアのキャリアは一転する。

 不協和音の連続は元はと言えば順調すぎるほどの人生を歩んできた彼女の「慢心」のようなものにあったのかもという見方もできるかもしれない。任を解かれた彼女が実家に戻り、かつての師であるレナード・バーンスタインが音楽の、演奏することの楽しさを語る古いビデオを見て涙が止まらなくなるシーンからも純粋な音楽への愛や喜びから逸脱した様を嘆くようにも。でもそんな彼女に起きた出来事を「身から出た錆」的に捉えたくないように感じたのも本音。たしかにひとりの生徒の意見を他の生徒の前で完全否定するようなレクチャーは、多様な意見が重んじられる今の時代なら居心地悪く感じる人もいるのだろうけれど、あのシーンは単なるパワハラ、アカハラとは違うんじゃないかとも思える。だいたい持ち込みが禁じられているスマホでその模様を撮影し、都合のいいように編集した動画を仕返しみたいにネット空間に上げる側のモラルはどうなのかと考えてしまいがちな自分の頭が古いのか。とはいえリディアにしても楽団での地位を手に入れるために裏で何をしてきたか明らかに描かれる場面はないものの、不都合なメールを削除しろとアシスタントに指示したり、娘をいじめる相手の子供を脅したりと決して肝心無欠の清廉潔白な人ではないのだろうが。なんだかモヤッとしたものが残る。
 宣伝では驚愕のラスト!あなたはどうとる?!みたいな煽り方をしていたけど、それまでの生活にピリオドが打たれ、新天地でタクトを振るのがゲーム音楽だからといってそれこそアカデミックコンプレックスって気もするけども。

 しかし事前にあまり情報を入れていなかったので「リディア・ター」という人は実在の人物なのかと思っていたのだけれど、モデルはいるとかいないとかだけど全くのフィクションの人物と鑑賞後に知ってびっくり。ネットで見かけたサントラのアルバムもよく見たらケイト・ブランシェットそのままだったのにやられたなあという感じ。本編のバッハのピアノ曲やオケのマーラー演奏シーンも素晴らしいんだけれど(「ヴィスコンティの映画は忘れて」のセリフににんまり)、監督が彼女をイメージしながらキャラを作っていったとはいえケイト様の演技は神がかり的に素晴らしい。その万能ぶりに改めて脱帽。ドイツ映画ファンとしてはニーナ・ホスの重要な役どころも嬉しかったし、女性キャストが皆印象的。サスペンスシーンのはさみ方など長さを感じさせない作りも楽しめた作品だった。

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原題:TÁR  監督:トッド・フィールド  2022年製作
出演:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ノエミ・メルラン、ソフィー・カウアー
@TOHOシネマズシャンテ 2023/6/20鑑賞


6/07/2023

ジャニス:リトル・ガール・ブルー

 不世出の女性ロックシンガーとして今も語り継がれるジャニス・ジョプリンの生涯を記録映像や写真、かつてのバンド仲間など身近な人々の証言を交えて描かれたドキュメンタリー。
 ジャニスを元にして描かれたフィクション作品で思い当たるのはベッド・ミドラーの『ローズ』。まさに60〜70年代のSex, Drag, Booze & Rock'n Rollというか、生き急いだシンガーを描いた物語だったけれど、ロッカーとして成功する前のローズは不幸な高校生活を送ったという描写があったように思う。
 幼馴染や学生時代のジャニスを知る人々の証言によれば、実際の彼女も学校生活に馴染めずハブられるような子だったらしい。大学進学後にシンガーとして活動するようになった彼女はやがてレコードデビューを飾り、その唯一無二の歌声で人々を魅了し押しも押されぬロックスターになる。しかしそうした成功後に意気揚々とハイスクールの同窓会に出席したものの、彼女にまともに話しかけてくるような学友はほとんどいなかったというエピソードが切ない。ジャニスにしてみればかつて自分を仲間に入れてくれなかった人々に認められたい、受け入れてもらいたい一心だったのだろうに。
 離れて暮らす故郷の家族との結びつきは強かったが、寂しさと名声の間で心身をすり減らし、彗星のように駆け抜けてしまったジャニスの人生は決して幸せとは言えなかったのかもしれないけれど、観客に見せ付けたその光は今もそしてこの先も輝き続ける。


ジャニスの妹さんが書いた本

原題:Janis: Little Girl Blue 監督:エイミー・バーグ 2015年制作
出演:ジャニス・ジョプリン(ドキュメンタリー)

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