昨年(2009年)のヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞した作品で、音楽を坂本龍一が担当したのも話題に。
1953年、モサデク首相が打ち出した石油生産国有化政策への英米の外圧に対するデモ活動のニュースがラジオから伝えられるなか、ムニスは心に熱い力がわき上がるのを感じていた。だが兄のアミールは彼女がラジオを聞くことも外出も許さず、その日やってくる求婚者に会うようにと一方的に言いつける。しばらくしてムニスの元を親友のファエゼが訪ねてくる。ファエゼは密かにアミールのことを慕っていたが、ふたりが目を離したすきにムニスは家の屋上から身を投げてしまった。
テヘランの娼館で女主人の言いなりのまま客を取り続けていたザリンはある日娼館を抜けだし、町外れの果実園に続く水路でばったりと倒れてしまう。彼女を発見したのは果樹園の館を買い取ったばかりのファクリ。夫である将軍にただ従うだけの生活をやめて窮地の文化人たちとつきあいながら、果樹園で新しい生活を始めようとした矢先のことだった。果樹園にはやがてファエゼもひょんなことから出入りするようになり共同生活を営むようになった3人と、そして不思議なことに埋葬が済んでから息を吹き返しモサデク支持の活動に身を投じることになったムニスだったが、世の中ではCIAの陰謀による反モサデクのクーデターが起ころうとしていた。
イランの抑圧された社会の中で葛藤しながら立ち上がる女性を描くというとマフマルバフ姉妹の作品などを連想するけれど、こちらも女性監督の作品。ただご本人がイラン生まれのニューヨーク在住ということが多少なりとも影響しているのか、男性の相手をさせられる娼婦の少女の描写や公衆浴場での女性たちのヌードなど大胆な映像が映し出されるのはイスラム圏の作品ではありえないでしょうね。
もともとはアーティストで映像作家であったというネシャット監督初の長編劇映画とのことですが、随所にみられる美しい構図が印象に残ります。ちょっと調べてみると元は4人の女性たちについて独立した短編があって本作はそれを統合した形になっているようなのですけれど、一編の詩のようにまとまっていたと思います。でも個々の女性たちのキャラがそれぞれ際立っていて個別の本編ストーリーもみてみたいなあと思ったり。
英題:Women Without Men 監督:シリン・ネシャット 2009年製作
出演:Naved Akhavan, Mina Azarian, Bijan Daneshmand, Rahi Daneshmand
第2回恵比寿映像祭上映作品
2010.02.18~28 @ 東京都写真美術館