ゼレンスキー氏、なぜTシャツ姿? 保安庁幹部が語った情報戦の教訓
カーキ色のTシャツ姿、無精ひげ。とつとつと発する低い声――。ウクライナのゼレンスキー大統領が連日、SNSで自国の窮状を訴えています。欧米などの議会に対し、オンライン形式で語りかける演説にも積極的です。一連の発信にどのような狙いがあるのか。ウクライナの政治・外交が専門の藤森信吉・北海道大スラブ・ユーラシア研究センター共同研究員(ウクライナ研究)は、ウクライナ政府内のある教訓が背景にあると語ります。
――ゼレンスキー大統領が各国の議会向けオンライン演説に力を入れています。これまで英国、カナダ、米国の議会などで自国の立場を訴えています。これにはどのような狙いがあるのでしょう。
ウクライナも含め、多くの国には首脳が外交の一環として他国の議会で演説する慣習があります。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合した後に就任した前任者、ポロシェンコ大統領(在任2014~19年)も各国の議会を訪れて、英語でウクライナの立場を訴えていました。
ゼレンスキー氏が議会演説に力を入れるのは、こうした従来の慣習に加え、相手国のより多くの人にウクライナの立場を知ってもらうという狙いもあるでしょう。
――議会向けに演説することで、どうして多くの人が知るということになるのでしょう。
相手国の政府との対話ということになると、やりとりは少人数かつ非公開になることが多いです。「議会向け演説なら多数の議員との連帯をアピールでき、より多くの視聴者向けに放送される可能性がある」とゼレンスキー氏は考えているはずです。そうすれば放送を見ている国民にも直接訴えることができ、相手国の世論を味方につけることにつながります。
本当は対面で訴えるのが一番迫力があるのですが、簡単に首都を離れられず、オンライン形式での演説に力を入れざるを得ない事情もあると思います。
――具体的にはどういう事情でしょう。
戦争の激化で首都キエフ周辺の交通状況が不透明になっており、ゼレンスキー氏が外遊することは簡単ではありません。たとえ首都を出ることができても、ロシア側から「ゼレンスキー氏が逃亡した」と偽情報を流される可能性もあります。
――オンライン演説というやり方が最も現実的なわけですね。オンラインだと迫力に欠けるということで、やはりメリットは薄いのでしょうか。
ところが、そうでもありません。ゼレンスキー氏はテレビタレント出身で政治経験が乏しく、双方向の政策討論は得意ではありません。オンライン演説ならば、議論を求められたりする場面は減るでしょう。
ゼレンスキー氏は聴衆の心の琴線に触れる表現にたけています。カメラを介した一方向のオンライン演説は、ゼレンスキー氏の個性に合っているともいえるでしょう。
日々ゼレンスキー氏がSNSで発信するビデオメッセージにも、同じことがいえます。原稿を完璧に頭に入れて話し、見る者の感情に訴えかけてきます。少しかれた低い声でとつとつと話している様子も、好感を呼ぶ要素かもしれません。
――ゼレンスキー氏が連日SNSのテレグラムに投稿するビデオメッセージですが、スーツ姿でなくカーキ色のTシャツ姿で、無精ひげものびています。これにも何か意図している部分はあるのでしょうか。
今のウクライナ大統領府には…