第5回「トルストイは非暴力を訴えた」 今こそ伝えたいロシア文学の世界
「もうロシアには行けない」。ロシア文学者の上田洋子さんは、ロシアのウクライナ侵攻で、そう覚悟を決めました。
批評家・東浩紀さんが立ち上げた出版社「ゲンロン」の代表として、知識人のトークイベント開催や批評誌の発行を担っています。チェルノブイリ原発へのツアーという形で、ウクライナとの関わりもあります。覚悟を決めないと言うべきことが言えなくなると感じたそうです。
世界を広げてくれたロシア文学との出会い、今こそロシアを学ぶ意義は――。語ってもらいました。
――上田さんはロシアへの留学経験もあり、現地にも友人が多くいらっしゃるそうですね。今回のロシアのウクライナ侵攻をどのように受け止めましたか。
ロシアに関わる研究者はみんなショックだったと思います。
言論統制のなか、政権は反体制の人々をどんどん「イノアゲント(外国エージェント)」と名指ししました。日本の研究者でも入国禁止になった人もいます。
私自身はロシア文学者ですが、「もうロシアには行けない」という覚悟はあります。そうしないと、何か言うことをためらってしまうと考えたんです。
ロシアの方が関係性は深いとはいえ、チェルノブイリのプロジェクトを通して何年もウクライナに通い、友人たちもいる。
両国に関わっている者として、ロシアに対してもウクライナに対しても、思っていることをちゃんと言う、両国のことを伝えるというのは使命だと思っています。
「戦争と平和」が描いたもの
――ロシアとの行き来は難しくなっています。いま、ロシアを知ることには、どんな意味があるのでしょうか。
ヨーロッパでは、コンサートでロシア出身のオペラ歌手をウクライナの歌手に変更するといった「キャンセル」がたくさんみられます。
日本は今こそ、ロシア文化を…