第1回ガンダム監督が語るウクライナ侵攻 「正義」への幻滅が生んだ世界観

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聞き手・石川智也
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 サブカル界の住人にとっては、生ける伝説とも言える存在だ。

 安彦良和(やすひこ・よしかず)さん。74歳。「虹色のトロツキー」など歴史に材をとった漫画作品の巨匠だが、何より、放映40年が過ぎてなおシリーズが続くアニメ「機動戦士ガンダム」の生みの親のひとりとして知られる。監督を務めたその最新作が今月、公開された。

【連載】ガンダムと戦争と歴史と 安彦良和が語る

「機動戦士ガンダム」の生みの親の一人、安彦良和さんに新作公開を機にその世界観を存分に語ってもらいます。

 正邪を離れ、さめた目で戦いを描く独特の作品世界には、東西冷戦下の世界観と、安彦さん自らの半生への内省が色濃くにじむ。かつて社会主義思想に傾倒して学生運動に身を投じ、「正義」に幻滅したという安彦さん。ウクライナ侵攻で多くの人々の命と暮らしが理不尽に踏みにじられているいま、何を思うのか。その戦争観と歴史観を縦横に語ってもらった。

「緩衝国家」という難題を描き続けた

 ――安彦さんが2018年から連載を続けている「乾と巽―ザバイカル戦記―」は、ロシア革命や日本のシベリア出兵を扱っていますが、かつてのウクライナのような「緩衝国家」が大きなテーマですね。

 「ロシア革命後に極東ロシアに生まれたザバイカル共和国は、日本がつくった傀儡(かいらい)国家だとされていますが、実態としては、革命の東進を防ぐための緩衝国家でした。その後、極東共和国にのみ込まれますが、これも、レーニンらのボリシェビキ政権が日本軍との直接対決を回避し欧州対応や国内経営の安定化に集中するために建国させた緩衝国家です。日本がシベリアから完全撤退すると用済みになり、ソ連邦に併呑(へいどん)されますが」

 「ウクライナ問題であらためて『緩衝国家』がキーワードになっていますが、きちんと調べてみると、そのあり方は多様ですね。ロシアと1300キロも国境を接するフィンランドはNATO(北大西洋条約機構)に加わってきませんでしたが、EU(欧州連合)加盟国で西側陣営にいて、それでいてロシアとも友好条約を結んでいる。今回のNATO加盟の意思表明はロシアにとって誤算でしょうが、緊張をさらに高めかねない。それほど長い国境線でNATOと接する事態は、旧ソ連衛星国や中立国を挟んで東西が向き合った冷戦時代にもなかったことですから」

「ガンダム」の生みの親のひとりとして知られる安彦良和さんが監督を務めた最新作「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が今月、公開されました。かつて学生運動に身を投じた安彦さんの半生を、インタビューで振り返ります。全6回でお届けします。

 「大国に翻弄(ほんろう)される危険を常に抱えた緩衝国家の生存には様々な方法があるし、微妙な立ち位置だけに、外交も内政もそれだけデリケートで難しいかじ取りを求められるということです。だから、ウクライナの親ロ派と親欧米派はいずれも失敗したのだと、僕は思っています。そもそも国内には両勢力の根深い対立があったわけですから」

 ――ロシアによるウクライナ…

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この記事を書いた人
石川智也
オピニオン編集部
専門・関心分野
リベラリズム、立憲主義、メディア学、ジャーナリズム論
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    小原篤
    (朝日新聞記者=アニメ、マンガ、映画)
    2022年6月17日12時27分 投稿
    【視点】

    現在大ヒット中の「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」について私がインタビューした時も少し触れていただいたウクライナ問題。安彦良和監督が深く踏み込んで語っています。「気がめいるような日々でした。武力侵攻を正当化する気はまったくないですし

    …続きを読む
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    今井邦彦
    (朝日新聞記者=歴史、考古学)
    2022年6月17日13時36分 投稿
    【視点】

     安彦さんが監督したのは「ククルス・ドアンの島」なので、「ガンダムの監督」とした誘導ツイートに違和感を覚えつつクリック。安彦さんの言葉を読んで、あらためて感じたことがありました。  いわゆる「ファーストガンダム」では、サイド7の住民は当初

    …続きを読む