クビ→裁判、再びクビに 50代で知った「解雇しづらい国」のリアル
関東地方の50代男性が人生初のクビを告げられたのは、昨年春のことだった。
当時の勤め先は、社員数十人のメーカー。総務担当の幹部に呼ばれて部屋に入ると、机の上に1枚の紙があった。
「解雇予告通知」
そんな文字が目に飛びこんできた。
まさか……。
男性は言葉を失った。
米ツイッター社の解雇騒動が注目を集める一方、日本では米国のように社員を簡単にクビにはできないとされています。しかし、2度のクビ宣告を体験した50代男性は「日本が解雇しづらい国だなんて信じられない」と言います。男性が直面した解雇の実態に迫りました。
予兆はあった。管理職として担当していた事業が中止になり、グループ会社に1年ほど出向した。本社に戻って1カ月以上たつが、ろくな仕事を与えられていない。ボーナスも激減した。
会社は給料が高めの自分を切りたい。だから嫌がらせを重ねて、自ら辞めるよう仕向けているのだろうと疑ってはいた。
それでもクビにはしないはずだと、たかをくくっていた。会社が社員との雇用契約を一方的にうち切る解雇は、日本ではたやすくできないはずだ。合理的な理由などがなければ無効になると、労働契約法に書いてある。
合理的な理由は何か
気を落ちつかせて解雇予告通知を読んだ。1カ月後に「普通解雇する」とあり、理由も書いてあった。
「能力が著しく不良」「改善の見込みがない」「他の職務にも転換できない」
自らの働きぶりを振り返ってみた。この会社に入ったのは数年前。中途採用だった。目標にしていた成果をあげられなかったのは確かだと思う。
でもそれは、自分の能力のせいだけなのだろうか。会社の存続を危うくするほどの赤字を出したわけではない。無断欠勤もなく、まじめに働いてきたと胸をはって言える。
「納得できません」
男性は向かい合う幹部にそう告げ、求められた署名を拒んだ。代わりに欄外に「説明は受けたが、受諾したという意味ではない」と書きこんだ。
その後も弁護士を通して撤回を求めたが、会社は動じない。解雇はそのまま断行された。
「無職」になった男性。転職サイトに登録していたが、若いころのようにスカウトの連絡は来ない。夜間に警備員のアルバイトをしながら、新しい仕事に就こうと求人に応募したが、書類選考でことごとく落とされた。
「自分は…」 浮かぶ不安
苦しいのは、収入だけではなかった。
「自分は社会に必要とされていない」。そんな不安が浮かび、知人と会うのもゆううつだった。
解雇を撤回させて職場に戻るために、裁判を起こそう。そう決意した。
心配なのは、お金だった。
裁判を始めるまでに、弁護士費用も含めて数十万円がかかりそうだと知った。だが弁護士に励まされて「必ず勝てる」と思い、踏ん切りがついた。勝訴すれば、無効になる「解雇」から復職までの期間中の給料が払われるはずだという。
裁判で会社側は、能力不足の証拠を次々と挙げてきた。
記事の後半では、解雇トラブルへの対応策も紹介しています。不当な解雇の情報があれば、メールアドレスt-rodo@asahi.comに送ってください。
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- 【視点】
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