月への挑戦、HAKUTO-R計画 「失敗」と言わなかった理由は?
民間による月探査計画「HAKUTO―R」を進めている日本の宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」。ミッション1として打ち上げた月着陸船は4月26日未明、月への着陸直前に通信が途絶えました。同社の袴田武史代表(43)は当日の記者会見で「次に向けた大きな一歩だ」と話し、「失敗」という言葉を使いませんでした。その意図などを聞きました。
袴田武史さん
はかまだ・たけし 1979年生まれ。名古屋大工学部機械・航空工学科を卒業後、米ジョージア工科大院で航空宇宙工学修士号を取得。経営コンサルティング会社を経て、2010年、米国Xプライズ財団主催の月探査レースにチーム「HAKUTO」として参加した。13年に宇宙ベンチャーのispace(アイスペース)を創業。レースは18年に「勝者なし」で終了したが、引き続き月をめざし、「再起動(Reboot)」という意味を込めた月探査計画「HAKUTO―R」を進めている。子どものころ、映画「スター・ウォーズ」を見て魅了されたという。
――月着陸船は昨年12月11日に打ち上げられ、約4カ月半かけて月に向かいました。その期間はどのような気持ちでしたか。
初めてのミッションなので、想定外のことが起こる可能性があり、チームのエンジニアとしては毎日ひやひやしていました。ただ、全体を見る立場としては、今回のミッション1だけでなく、ミッション2(同社開発の月面探査車を載せた月着陸船を2024年に打ち上げ)、ミッション3(25年に月着陸船打ち上げ)も並行して見ていかないといけないので、必ずしもミッション1だけを考えているわけではありません。そういう意味で、気持ちの配分は難しいところがありました。
――打ち上げから着陸までの間、どの時点がいちばん難しいと考えていましたか。
いろいろなフェーズがあります。一般的には着陸が難しいだろうと思われるんですけど、今回、10個のマイルストーン(目標点)を設定し、一つ一つをしっかりクリアしていくという方針で進めました。
まずはハードウェアがしっかり動いていないと、着陸さえ無理だと考えていました。初めて開発する宇宙機の場合、複雑なシステムなので、宇宙機として機能するかが重要です。3個目のマイルストーン(ロケットから分離後、着陸船と管制室との通信の確立)が難関と考えていて、ここでハードウェアが機能していることを確認できたことは大きなポイントでした。
途絶えた通信
――月面に近づいた着陸船との通信が途絶えました。
今か今かと待っていましたが、やはり時間が経つにつれて何か起こったのかなと思っていました。エンジニアと話して、状況を理解しました。もちろん一つ一つのイベントに対する感情は重要ですが、自分自身は運営する側としては何か起こった時の対策をどうするのかが重要です。
成功すればみんなで騒げばよいのですが、失敗した時にどういう対応をすべきか、これまでにシミュレーションしていますので、それを活用するタイミングがきたんだなと心を置き換えました。
記事後半では、今回のミッションを「失敗」と言わなかった理由や、月への挑戦を続ける意味について聞いています。
――結局、月面にぶつかる「…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら