臓器移植は「葛藤の上に成り立つ医療」 患者や家族が署名活動で訴え
国内で臓器移植が進まない現状を変えようと、環境整備を求める署名活動が6月から行われている。活動の中心を担うのは、移植を受けた患者やその家族ら。移植をあきらめたり、移植を受けられずに亡くなったりする患者が1人でも減ってほしいと願っている。
佐々木沙織さん(35)と幸輔さん(35)の次女あやめさん(8)は、2018年7月、3歳のときに米国で心臓移植を受けた。渡航移植の費用3億円超を準備するため、両親は知人らと募金のため街頭に立ち続けた。資金が集まり、米国に渡ってから移植を受けるまで半年ほどかかった。その間、現地で暮らすための経済的な負担に加え、あやめさんの容体急変への不安も抱えながら過ごした。
あやめさんの命を第一に考えて、渡航移植を決めたが、「渡航という選択をしなくてもいいように国内の環境を整えてほしい」と沙織さんは話す。
沙織さんと幸輔さんは7月6日、署名活動の発起人で、生体肝移植を受けた及川幸子さん(43)らと厚生労働省で記者会見を開いた。
多くの人に臓器提供のことを考えてもらおうと、「臓器を提供しない」という意思表示のない人は、臓器を提供する意思があるとみなす「オプトアウト」方式の導入についての議論を呼びかけた。
国が2021年に実施した調査では、4割の人が、自分の臓器を「提供したい」と思っているのに、実際にその意思表示をしている人は1割程度にとどまる。意思表示をしている人が少ないことが、国内で臓器提供が進まない一因とされている。
署名活動では、入院時に臓器提供の意思確認を義務づけることや、患者家族に対応するコーディネーターの育成なども求めている。
臓器移植に関する理解を広げることも活動の目的だ。及川さんは「(移植を希望する患者は臓器提供者の)死を待っていると言われることがあるが、闘病の経験から、家族がどれほどつらい思いをするかは身にしみてわかっている」と強調。「いろんな葛藤の上に成り立っている医療だということを知ってほしい」と訴えた。
国内で移植を希望し、日本臓器移植ネットワークに登録している人は1万5677人(6月末時点)。昨年、移植を受けた人は455人と、3%程度にとどまっている。
国際的に臓器の提供と移植は国内で完結することが原則とされるが、移植の機会を求めて、海外に渡る患者も一定数いる。厚生労働省の調査では、海外で移植を受けた後、国内の医療機関に通っている患者は3月末時点で543人に上る。