「劇場型犯罪」だったグリコ森永事件 自己顕示と報道の「悪循環」
今年で発生から40年を迎えた「グリコ・森永事件」は、マスコミや警察に挑戦状が送りつけられ、「劇場型犯罪」と呼ばれた。劇場型犯罪などの社会心理学を研究する聖心女子大学の小城英子教授(52)は、事件には犯人側の「自己顕示」とマスメディアの「加担」があったと分析する。
事件ではスーパーに青酸入りの菓子が置かれ、一般家庭を中心に全国に不安が広まりました。神戸に住んでいた私の家庭でも一時期、お菓子が姿を消しました。
劇場型犯罪としてのグリコ・森永事件の特徴は、犯人の目的の一つが自己顕示であり、そのためにマスコミを利用したことです。
犯人が「かい人21面相」という名前をあえて出すことは、正体を特定されるリスクにつながります。それにもかかわらず名乗り続けており、自身の存在をアピールしたいという欲がうかがえます。
さらに、お菓子に毒を混ぜるという無差別かつ凶悪な犯行の一方で、「どくいり きけん」などと警告文を添え、実際の危害が生じるのを避けていました。そんな矛盾から感じられる犯人の「えたいの知れなさ」が、不安に拍車をかけたと言えます。
グリコ・森永事件
1984年3月、江崎グリコ社長が誘拐され、現金10億円と金塊を要求された。犯人グループは、青酸ソーダ入りの菓子をスーパーなどに置き、森永製菓や丸大食品などの食品企業を次々に脅迫した。85年8月に突如、新聞社などに終結を宣言。2000年2月までに全ての事件の時効が成立した。犯人グループの1人は、その似顔絵から「キツネ目の男」と呼ばれる。
興味本位の報道、不安を強固に
マスコミも犯人のアピールに…
- 【視点】
この事件は劇場型犯罪と同時に、無差別に市民を標的にした社会不安型テロ、無差別食品テロというタイプのテロリズムでもあった。地下鉄サリン事件でさえもテロと認識しなかった日本では、当時まだテロ、テロリズムという概念は社会一般に理解されておらず、メ
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