原点は救えなかった命 優生訴訟・新里弁護士がつなぐ法創造のバトン

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聞き手 編集委員・豊秀一
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 法は何のためにあるのか。旧優生保護法の下、強制的に不妊手術を受けさせられた障害者らが国家賠償を求めた裁判は、私たちに問い続けてきた。「時の壁」を破り、被害救済に道を開く最高裁判決を導いた原告と弁護団たち。その闘いの中心にいた新里宏二弁護士に聞いた。弁護士の仕事とは何ですか。

 最高裁大法廷は7月3日、旧優生保護法は「立法時点で違憲だった」として、国に賠償を命じる判決を言い渡しました。法令の違憲判断は戦後13件目、立法時点で違憲だと明示したのは初めてのことです。弁護団の共同代表を務める新里さんは、これまで多重債務の問題などにも熱心に取り組んできました。何を原点に、どのような思いで弁護士として闘い続けているのでしょうか。

――戦後の憲法裁判史に刻まれる判決でした。最高裁の15人の裁判官を動かしたものは、何だと考えていますか。

 「被害者が声を上げることが、社会を変える力になったのです。権利は、恩恵的に与えられるものではなく、勝ち取っていかなければならない面がある。言葉で言うのは簡単ですが、虐げられた人たちが声を上げることは、現実にはとても難しい。多くの障害者団体などがサポートしてくれたことで、ここまで来ることができました」

 「そして判決からは、裁判官の怒りが伝わってきました」

 ――裁判官の怒りですか?

 「そうです。1948年から96年まで約48年間、国家の政策として障害者を差別し、重大な犠牲を強いてきたと強い言葉で非難し、優生保護法という違憲の法律を国会議員が作ったことを違法行為だと断じました。救済しかない、という裁判官の強い意思が伝わってきました」

 ――被害から20年経てば賠償請求権はなくなる、という旧民法の規定は「時の壁」と言われ、条文を形式的に捉えれば被害者は救済されませんでした。法は何のためにあるのか、が問われた裁判でもありました。

 「踏みつけられた人の権利なんて『時の壁』で終わり、というのが国の主張でした。そうではない。法は、少数者の権利を守るものです。目の前の被害を救済するために、どう解釈・運用すべきか。法は、私たちに知恵を絞るよう求めているのです」

 ――最高裁の大法廷であった弁論で、新里さんは裁判官に、法の「創造の担い手」として判断してほしい、と訴えました。最高裁は判決で、この規定で国が責任を免れることは「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない」として、「時の壁」の主張は権利の乱用として許されないこともあり得ると判例を変更しました。

 「今回の判決は、『創造の担…

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    岩本菜々
    (NPO法人POSSE理事)
    2024年7月12日20時42分 投稿
    【視点】

    ・優生思想は現代にも。「時の壁」打ち破る勝訴判決からバトンを受け継ぎたい 「みんなで力を合わせれば、できることがある。力を合わせて、過去の判例がひどければ変える。法律がひどければ違憲判決をもらう。...そうやって、被害に見合った救済を考え

    …続きを読む