第1回電車に荷物背負った高齢者、そのとき乗客は 「儒教の国」韓国の変化
【連載】老いる韓国 「超高齢化」のリアル 第1回
9月16日は「敬老の日」。韓国にも10月2日に似たような日があるが、祝日ではないこともあって、実はあまり知られていない。
その理由について「儒教の影響が強い韓国では普段から敬老の意識があるため」などと説明する日本のサイトを、会社の同僚から紹介された。
いまはどうなんだろうか。東京にいる韓国出身で30代の知人にこの説明をどう思うか尋ねてみると、「ありえない」と言ってため息まじりに答えた。
「敬老の精神は、今はだいぶなくなっているよ」
実は私もそう感じる場面に遭遇していた。9月初め、夏休みでふるさとのソウルに帰省していた時のことだ。
夕方、帰宅ラッシュが迫る地下鉄に、大きな赤いリュックを背負った高齢の女性が乗り込んできた。80代ぐらいだろうか。荷物は重そうで、疲れた表情をしていた。優先席は埋まっており、女性は立っていた私の近くに移動してきた。
見渡すと、周囲の視線はみな、手元のスマホに落ちていた。車内に人が多いが、周りが見えないほどではない。だが、席が空く気配はなかった。
【連載】老いる韓国 「超高齢化」のリアル
日本を上回るペースで進む韓国の「超高齢化」について報告します。超少子化、移民に続き、韓国の人口問題を考えるシリーズの第3弾です。全9回。うち第5回までは韓国の現場の動きを紹介。第6回は日韓連携の可能性を探ります。第7回以降はインタビュー編となります。
一昔前の韓国なら、多くの人が率先して高齢者に席を譲っていたはずだ。私も習慣になっていて、東京で同じようにしたところ、断られて戸惑った記憶がある。
もちろん、日本でも高齢者に席を譲る文化はあるが、韓国の高齢者が譲られることに慣れている様子を考えると、日本と韓国はずいぶん違うんだな、と思ったものだ。
このあと、どうなるのか。
気になって見ていたところ、女性は行動に出た。目の前の若い女性に席を譲ってほしいと頼んだのだ。だが、その若い女性は少し困惑した表情を見せた。無言で立ち上がって譲っていたが、そばにいた私まで何だか気まずくさせてしまう空気が流れた。
翌日も、地下鉄に乗った。高齢の男性が杖をついて立ち続けていた。誰も席を譲らなかった。
以前の様子を思うと、今回目にした地下鉄の様子には改めて、大きな変化を感じずにはいられなかった。
私は韓国生まれ。6歳で日本に移るまでソウルで暮らし、大学時代もまた韓国で過ごした。40歳の私が子どもだった時、社会には高齢者を敬う儒教の影響が今よりも色濃く残っていた。
祖父に「ごはんですよ」と声をかけたところ、親から「お食事をお召し上がりください」と丁寧な言葉を使うように注意された。祖父が箸をつけるまで食べ始めてはいけない、とも言われた。食事は年長者の分から先によそうこと、果物をむいたら一番先に渡すことなど、理不尽だと感じたこともあるが、従っていた。だから日本に来て、自分の祖父母や他の高齢者と友だち口調で話す同級生の姿を見てびっくりした。
そんな記憶とともに、地下鉄で見た出来事をソウルで働く20代の知人に話してみたところ、素っ気ない言葉を返されて驚いた。
韓国が急速に高齢化しています。2040年代前半には、高齢化率が現時点で世界一の高齢国である日本を抜く見通しです。記事後半で詳しく伝えます。
「誰も譲りませんよ。だって…
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