(社説)新政権と経済 働き手への分配強めよ
石破茂氏を首班にする新政権がきょう発足する。国民生活に直結する経済政策については、岸田政権の方針を引き継ぐ考えという。日本経済の最重要課題は家計所得の引き上げだ。さらなる賃上げや、働き手への分配強化が果たせるか。新政権の姿勢と手腕が問われることになる。
第2次安倍政権後の日本経済は、円安などを背景に企業の業績が上向き、株主への還元が拡大した。その半面で、賃上げや設備投資には慎重な姿勢が続き、賃金は四半世紀にわたり低迷してきた。
個々の企業でみれば、財務体質の強化を優先し、コストを削って利益をため込むことには、合理的な面もある。だが、賃金抑制が個人消費の停滞を招き、それゆえ投資も控えるという悪循環を生むようでは、自らの首を絞める「合成の誤謬(ごびゅう)」でしかない。
こうした状況への処方箋(せん)として、岸田氏は3年前の首相就任時に「分配なくして次の成長なし」「令和版所得倍増」などの方針を掲げた。方向性はうなずけたが、所得倍増は早々に「資産所得倍増」にすり替わり、税制の不公平を正す金融所得課税の見直しも株価にマイナスとの声に押され、ほぼ棚上げされた。
賃金については、企業に適正な価格転嫁を求めてきたことが最近の賃上げを後押しした面はある。ただ、企業の利益水準や長期の賃金低迷を踏まえれば、まだ道半ばだ。
新政権も、企業に賃上げを促し、悪循環を断ち切る課題を負うことに変わりはない。景気の安定に加え、「人手不足」の下で人材やデジタル化への投資を迫られる状況を前向きに生かす施策が必要だ。非正規労働者の待遇改善や最低賃金の引き上げも着実に進めなければならない。
石破氏は先週の記者会見で「個人消費が上がっていかなければ経済はよくならない」と強調した。総裁選では、富裕層向けの金融所得課税の強化や法人税の引き上げ余地にも言及している。
岸田政権が積み残した課題を直視し、具体策づくりを急ぐべきだ。企業や株主だけでなく、家計を中心にした国民全体にとって望ましい経済の形を目指し、指導力を発揮することが求められる。
一方で、政策の問題点まで引き継がれては困る。岸田政権では、半導体分野への巨額の補助金投入など、成長戦略や経済安全保障の名のもとに政府が特定領域へのテコ入れを強める政策が目立った。
政府の能力を過信し、生産資源の配分をゆがめてはいないか。民間との役割分担について、改めて点検すべきだ。