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01月29日朝日新聞朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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芥川賞・直木賞

  • 夫を亡くして:87 門井慶喜 終焉 10 2025年1月29日5時00分

    ミナは、日を追うごとに良妻賢母に近づいた。 ふつうの主婦になった、ともいえる。 或(あ)る日、透谷(とうこく)が友人を家に呼んできて、何やら文学上の議論を始めた。暮れ方になって透谷が言う、「何もない…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:86 門井慶喜 終焉 9 2025年1月28日5時00分

    透谷(とうこく)は、生まれた子を英子(ふさこ)と名づけた。 これはもちろん、父と母の共通の関心の対象である英語というものを託してのことだったろう。「いい名前だわ」 ミナは心から喜んだが、しかし父とし…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:85 門井慶喜 終焉 8 2025年1月27日5時00分

    透谷(とうこく)は「女学雑誌」から原稿料をもらう身になった。 とはいえ、暮らしが立つほどの額ではないので、英語教師もつづけたし、築地の西洋人の通訳もつづけた。 雇い主が伝道旅行に出かければ、それにも…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:84 門井慶喜 終焉 7 2025年1月26日5時00分

    ふだんのミナなら、世間の常識は気にしない。 近所の奥さんの立ち入った質問にも、「ええ、そうですよ。透谷(とうこく)はあの『厭世(えんせい)詩家と女性』っていう文章で、私たちのことを書きました。私たち…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:83 門井慶喜 終焉 6 2025年1月25日5時00分

    巌本善治は椅子に座ったまま、透谷(とうこく)の原稿へ目を落とした。 読み終わるや、透谷を睨(ね)め上げ、石炭を積みすぎた蒸気機関車のように野太い声で、「次号の『女学雑誌』に載せよう」 巌本は、やはり…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:82 門井慶喜 終焉 5 2025年1月24日5時00分

    透谷(とうこく)が「女学雑誌」にした投書は、みな評論に類するものだった。 同誌の記事に対する異議申し立てであったり、時勢に関する雑感であったり。 詩や小説が一編もないのは、投書だから当然だろう。原稿…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:81 門井慶喜 終焉 4 2025年1月23日5時00分

    引っ越してから、ミナと透谷(とうこく)は、夜のすごしかたも変わった。 寝床で抱き合うことが増えた。 それまでも、布団を並べて敷いてはいたのである。 しかし何しろ襖(ふすま)一枚向こうに姑(しゅうとめ…[続きを読む]

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    選考委員の講評から 第172回芥川賞・直木賞 2025年1月22日16時30分

    15日に決まった第172回芥川賞・直木賞の受賞作は、どのように評価されたのか。選考委員の講評から振り返る。 芥川賞は安堂ホセさんの「DTOPIA(デートピア)」(河出書房新社)と鈴木結生(ゆうい)さ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:80 門井慶喜 終焉 3 2025年1月22日5時00分

    透谷(とうこく)の話は、こうだった。 透谷はふだん、築地の居留地で通訳などの仕事をしている。その雇い主のひとりである宣教師ジョセフ・コーサンドという人が、かねて三田で普連土(ふれんど)女学校という日…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:79 門井慶喜 終焉 2 2025年1月21日5時00分

    ミナとしても、姑(しゅうとめ)のユキに対して、(申し訳ない) とは思うのである。 家事から逃げる気もない。ときには正座して裁縫箱をあけ、着物の襟付けなどしてみるのだが、指運びがうまくいかず、針を折る…[続きを読む]

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    あの日の天声人語㊵ 1965年1月20日 発行停止の歴史と教訓 2025年1月20日5時00分

    ■まなび場天声人語「あの日探訪」 かつて紙面に掲載された天声人語を当日の1面とともに再掲し、当時の時代背景や歴史を学ぶ「あの日の天声人語」の40回目は、1965年1月20日を取り上げます。この日、大阪…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:78 門井慶喜 終焉 1 2025年1月20日5時00分

    詩集『蓬莱曲』刊行前後から、ミナと透谷(とうこく)は、少しずつ生活の面で変化が生じはじめた。 まず透谷の仕事であるが、相変わらず外国人相手の通訳が多かったものの、雇い主はときどき替わる。 人によって…[続きを読む]

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    まなび場天声人語 2025年1月20日5時00分

    かつて紙面に掲載された天声人語を当日の1面とともに再掲し、当時の時代背景や歴史を学ぶ「あの日探訪」の40回目は、60年前の1965年1月20日を取り上げます。入江徳郎が執筆を担当していた時代です。(…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:77 門井慶喜 デビュー 14 2025年1月19日5時00分

    透谷(とうこく)の『蓬莱曲』は、退屈な詩だった。少なくともミナにはそう思われた。だが道中がいかに退屈であろうとも、結末への不満に比べれば、はるかにましだった。 結末は、考え得るかぎり最悪だった。ミナ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:76 門井慶喜 デビュー 13 2025年1月18日5時00分

    透谷(とうこく)の第二作『蓬莱曲』の主人公・柳田素雄は、富士山のふもとから山中へ登り進みつつ、いろんな人間と出会っては話す。 仙姫(やまひめ)とか、道士とか、樵夫(きこり)とか。 誰が相手であろうと…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:75 門井慶喜 デビュー 12 2025年1月17日5時00分

    ほどなく友人は家を辞し、ミナと透谷(とうこく)は仲なおりした。 ミナは、透谷を励ました。「とにかく書いてよ、次の作品を。私がいちばん楽しみにしてる」 二年後、透谷は『蓬莱曲』一巻を世に出した。 やは…[続きを読む]

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    芥川賞に安堂ホセさん、鈴木結生さん 直木賞に伊与原新さん 2025年1月16日5時00分

    第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京都内で開かれ、芥川賞は安堂ホセさん(30)の「DTOPIA(デートピア)」(文芸秋号)と鈴木結生(ゆうい)さん(23)の「ゲーテは…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:74 門井慶喜 デビュー 11 2025年1月16日5時00分

    まわりは、人通りが多い。 ミナと透谷(とうこく)の横を通り過ぎつつ、ちらちら見る者も少なくない。 おそらく痴話喧嘩(げんか)だと思われているのだろうが、ミナはかまわず、声を張り上げて、「あなたのこと…[続きを読む]

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    芥川賞・鈴木結生さん 在学先教授「課題の文体、物語のようだった」 2025年1月15日20時48分

    西南学院大学の大学院1年、鈴木結生(ゆうい)さんの「ゲーテはすべてを言った」が15日、第172回芥川賞を受賞した。学内関係者からは喜びの声が聞かれた。 学部時代から鈴木さんの講義を担当しているという…[続きを読む]

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    芥川賞「最も過剰な2作」、直木賞は田舎町舞台 選考委員の評価は 2025年1月15日20時16分

    第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京都内で開かれ、芥川賞は安堂ホセさん(30)の「DTOPIA(デートピア)」(文芸秋号)と鈴木結生(ゆうい)さん(23)の「ゲーテは…[続きを読む]

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    芥川賞に安堂ホセさん、鈴木結生さん 直木賞は伊与原新さん 2025年1月15日18時18分

    第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日開かれ、芥川賞は安堂ホセさん(30)の「DTOPIA(デートピア)」(文芸秋号)と、鈴木結生(ゆうい)さん(23)の「ゲーテはすべてを言…[続きを読む]

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    作家がみな欲しがる直木賞とは 村山由佳さんが向き合った承認欲求 2025年1月15日15時00分

    芥川賞と直木賞は、小説家にとって別格の文学賞だ。賞の権威以上に、その知名度が作家の人生を変えることがある。村山由佳さんの新刊「PRIZE―プライズ―」(文芸春秋)は、表現者の尽きない承認欲求を描いた…[続きを読む]

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    第172回芥川賞・直木賞きょう発表 ノミネート10作品の顔ぶれは 2025年1月15日12時00分

    第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日夕、東京都内で開かれます。両賞ともに五つの候補作から受賞作が決定。ノミネート作品の顔ぶれを候補回数の多い順に紹介します。 まずは芥川賞か…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:73 門井慶喜 デビュー 10 2025年1月15日5時00分

    透谷(とうこく)の『楚囚之詩』は、どの書店でも置いてもらえなかった。この結果には透谷はありありと気落ちして、初日から、「もういいよ。あきらめよう」「冗談じゃないわ」 ミナは、あきらめない。 ひとりで…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:72 門井慶喜 デビュー 9 2025年1月14日5時00分

    ミナは透谷(とうこく)の手から原稿の束を奪い、最後の一枚を示して、「この詩の主人公、最後には弱って死んじゃうでしょう。獄舎のなかで、たったひとりで」「そりゃあ、何しろ、重罪人だしね」「それは駄目。あ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:71 門井慶喜 デビュー 8 2025年1月13日5時00分

    ミナの当惑に、ようやく透谷(とうこく)も気づいたのだろう。「恥ずかしい?」 と、聞くには聞いた。 が、つづけて平然と、「いいじゃないか、ミナ。俺と君の仲だ。誰を憚(はばか)ることもない。ベアトリーチ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:70 門井慶喜 デビュー 7 2025年1月12日5時00分

    ミナが「楚囚之詩」を恥ずかしいと言ったのは、その出来ばえに対してではなかった。 きわめて個人的な含羞(がんしゅう)だった。この詩のなかでは、主人公の詩人が、何度か同室の女――途中で他の獄舎へ送られた…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:69 門井慶喜 デビュー 6 2025年1月11日5時00分

    透谷(とうこく)は、「明るい? この詩が?」 首をかしげた。あらすじとしては主人公がただ獄死するだけの「楚囚之詩」の、いったいどこが明るいのか。そう言いたいのにちがいなかった。 ミナは、「もちろん、…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:68 門井慶喜 デビュー 5 2025年1月10日5時00分

    もっとも、透谷(とうこく)の「楚囚之詩」は、内容は自由ではなかった。 何しろ題が題である。舞台は監獄のなかである。行動の手段を奪われた囚人の歎(なげ)きが、ほとんど全編にわたって詠(うた)われるのだ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:67 門井慶喜 デビュー 4 2025年1月9日5時00分

    ミナは立ったまま、透谷(とうこく)の原稿へ目を落とした。 一枚目に戻り、白紙に「楚囚之詩 北村門太郎」と記されているのを改めて見て、ゆっくりと紙をめくった。 二枚目からは、枠線の印刷された原稿用紙。…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:66 門井慶喜 デビュー 3 2025年1月8日5時00分

    透谷(とうこく)は立ったまま、目を輝かせて、「ミナ。できた。できたよ」「書けたの?」「ああ。あんまりうれしかったんで、目黒まで歩いて行って帰ってきた」「見せて。見せて」「そこ」 と、透谷は、机の上を…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:65 門井慶喜 デビュー 2 2025年1月7日5時00分

    透谷(とうこく)の文筆生活は、たいそう健康的なものだった。 夜あけに目ざめて机に向かう。朝食を取って机に向かう。 昼には想を得るための散歩やら、家計を助ける仕事やらで留守にすることが多かったけれど、…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:64 門井慶喜 デビュー 1 2025年1月6日5時00分

    とにかく。 ミナは、結婚生活に慣れた。 慣れると、また学校に行きたくなった。 もとより姑(しゅうとめ)のユキの許しは得てあるのだ。もっとも、すでにして横浜の共立女学校は退学してしまっている。 嫁いだ…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:63 門井慶喜 結婚 10 2025年1月5日5時00分

    姑(しゅうとめ)のユキは、夫の快蔵に対して辛辣(しんらつ)だった。 が、それでも、透谷(とうこく)に比べればましだった。ユキは何が気に入らないのか、この血を分けた長男に対しては、「門太郎(透谷の本名…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:62 門井慶喜 結婚 9 2025年1月4日5時00分

    ミナも、家事を厭(いと)うわけではない。 いろんな機に、「お義母(かあ)様、私がやります」 と、ユキに申し出てはみるのである。 だが縫いものをすれば縫い目が千鳥足になる。台所に立てば包丁を持ったまま…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:61 門井慶喜 結婚 8 2025年1月3日5時00分

    銀座煉瓦(れんが)街は、着工から五年後の明治十年(一八七七)、いちおう工事を完了した。 予算等の都合で完全に洋風にはならず、一部、和風の建物が混在したものの、それでも道に沿って柳の木が植えられたり、…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:60 門井慶喜 結婚 7 2025年1月1日5時00分

    《24歳のミナは、「日本語を改良して国を進歩させる」と話す3歳年下の北村透谷(とうこく)に好意を持ち、結婚することに決めた。式は既に2人が入信していたキリスト教式にしたため、慣習を重んじるミナの両親…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:59 門井慶喜 結婚 6 2024年12月31日5時00分

    父の昌孝(まさたか)は、当惑ぎみに、「日本語の文章の改良とは、これまた北村君も……身のほど知らずな」「気宇壮大、と言ってください」 ミナは腰を浮かし、声を励まして、「人間一代の大仕事は、最初はつねに…[続きを読む]

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    2024この1年 7月~12月 2024年12月30日5時00分

    (18面から続く) ■7月 3日 日本銀行が20年ぶりに新紙幣発行。先端技術による偽造防止対策を強化=[7] 3日 旧優生保護法下で不妊手術を強制された障害者らが国に損害賠償を求めた裁判で、最高裁が…[続きを読む]

  • 夫を亡くして:58 門井慶喜 結婚 5 2024年12月30日5時00分

    結婚式に両親が来ない、という想像は、ミナの心を暗くした。 それでもミナは、「承知しました。お父様」 と、また一礼するほかない。この明治の世の中でキリスト教がどういう目で見られているかは、ミナ自身、じ…[続きを読む]

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    2024この1年 1月~6月 2024年12月30日5時00分

    能登半島地震や羽田空港での航空機事故など、衝撃のニュースで始まった2024年も、幕を閉じようとしています。世界的に「選挙イヤー」でもあった今年。日本では「政治とカネ」の問題が響き、与党が過半数割れ。…[続きを読む]

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