秋葉原のギャラリーJIKKAで飯山由貴個展「湯気 けむり 恩賜」が開かれている(9月18日まで)。飯山は1988年、神奈川県生まれ。2011年に女子美術大学絵画学科洋画専攻を卒業し、2013年に東京芸術大学大学院美術研究科油画を修了している。2011年に銀座ギャラリー女子美で初個展。その他、各地のグループ展にもう10回以上参加している。
この個展について、『ART NAVI』9月号に詳しく紹介されている。
飯山由貴はネットオークションなどで手に入れたスクラップブックの内容を紐解き、そこから得たイメージを作品化する作家だ。例えば「スクラップブック」と検索すると、海外ファッション誌の切り抜き、アイドルの写真集を集めたものなど、多くのスクラップブックがオークションサイトに出品されている。そのなかでも飯山が感心を注ぐのが、昭和〜昭和期の上流階級に関するものだ。「今ならアイドルなどに向けられるファン心理が、当時は皇室にも注がれていたようです。鬼気迫るようなオブセッションを感じる本もあって、つくった人の高揚感が伝わってきます」。
一冊の本に、昭和天皇の母である貞明皇后に関する記事が頻出することに気づき、作品化のためリサーチを続けるうちに飯山自身もある種のオブセッションにとらわれていったという。「皇后はハンセン病患者の支援に関心を持ち、『らい病予防協会』は彼女の下賜金から設立されました。でも、その意図に反して日本全国で起こったのは、患者たちを社会から排除・隔離する運動で、人権を蹂躙された生活を患者たちは強いられたんです」。(中略)
「私たちはあまりにも過去を忘れすぎている。忘却によって、現在の日本にも通じる悪循環から逃れられず、また愚かなことを繰り返してしまうような気がします」。スクラップブックに集積されているのは、個人の想いや妄想の残滓に過ぎないかもしれない。しかし、それゆえに語ることのできる歴史の切り口があるのだ。
ギャラリーの突き当たりのテーブルには、飯山が集めた古ぼけたスクラップブックが陳列されている。また1台のモニターには線香から立ち上る煙が映されており、もう1台のモニターには湯気が映し出されている。この湯気は、法華寺の「から風呂」の湯気を撮ったもの。これは奈良時代の光明皇后がらい病患者の垢をこすったところ、その病人が如来だったという故事から、寺で年1回行っている行事を取材したものだという。
その他、昭和初期のらい病予防協会のSPレコードや蓄音機、編み物、ひな人形などが並べられている。
また飯山の書いたエッセイ風のノートが販売されている。内容は今回の展示に関係する取材ノートみたいなものだった。らい病患者の施設を訪ね、患者の話を聞き、法華寺の風呂の湯気を撮影に行ったことなどが書かれている。文章は決してうまくはないが、読み始めると引き込まれる。強い体験を飾らずに書いているので、訴える力があるのだろう。
飯山は経験し考えたことを美術という形式を使って表現しようとしている。それも一つの美術の重要な役割だと思う。飯山は今回の個展を企画するに当たって、各地に飛び取材を重ね考察し、それらをノートに記している。少なくとも今回のテーマに関する飯山の理解は格段に深まったことだろう。個展会場に足を運んだ人たちも、飯山の思考のいくぶんなりとも自分のものにできたのではないか。私もそのひとりだ。
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飯山由貴個展「湯気 けむり 恩賜」
2013年9月4日(水)−9月18日(水)
11:00−19:00(会期中無休)
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JIKKA(ギャラリー)
東京都千代田区外神田3-6-14 深野ビル1F
会期中の連絡先:080-xxxx-xxxx
東京メトロ銀座線末広町駅徒歩数分
蔵前橋通りを西に進み、虎貴庵前を左折し、芳林公園の手前
蔵前橋通りを挟んで3331アーツ千代田とは線対称の位置になる