最も不安だった時に寄り添ってくれた医師がいた。職場の研修でパワハラを受け、心はもう限界だった。その医師は、労災が認められるための意見書にサインし、いつも通り真っすぐ見つめてくれた。繁華街にあるクリニックが、炎と煙で包まれる2週間前のことだった。
大阪・北新地の心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」で2021年12月17日、医院のスタッフや患者ら計26人が命を奪われる放火殺人事件が起きました。クリニックの患者だった谷本盛雄容疑者(当時61歳)も煙を吸い込み、事件から13日後に死亡したことから不起訴となっています。痛ましい事件から3年。治療で励まし合った仲間や寄り添ってくれた院長ら、かけがえのない存在を失った思いを元患者の人たちに聞きました。
今年11月11日、学校法人職員の50代男性は7年近く休職した職場に復帰した。以前とは異なる部署での勤務。パソコンの設定を済ませ、同僚にあいさつした。
「元に戻れるかなと思っていましたが、なんとか定時までいられました。先生のおかげです」
2016年夏、男性は大阪市北区の雑居ビル4階にある「西梅田こころとからだのクリニック」を訪れた。JR大阪駅に近く、通勤途中に通院できることから妻が見つけてくれた。
受診の前日まで5日間、「自己改革」と称する学校法人の職員研修に参加した。同僚ら計18人がビルの一室に集められた。暗幕が張られ、日が入らない部屋だった。
コンサルタント会社から派遣されてきた外部講師に退職するよう迫られ、容赦ない言葉で人格を否定された。「あなたのように腐ったミカンを置いとくわけにはいかない」「老兵として去ってほしい」
クリニックで向き合ってくれたのは、院長の西沢弘太郎さんだった。診断名は「抑うつ状態」。研修後も上司に呼び出されて何度…
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