まことしやかな噓、トランプの時代 阿部和重さん寄稿
アメリカ大統領選でトランプ大統領の敗北が確実視されている。世界中で波紋を呼んだ「トランプの時代」とは何だったのか。2010年に谷崎潤一郎賞を受けた「ピストルズ」を含む三部作など、日米関係を映す小説で知られる作家の阿部和重さんに寄稿してもらった。
あべ・かずしげ 1968年、山形県生まれ。94年「アメリカの夜」でデビュー。2005年「グランド・フィナーレ」で芥川賞。
「トランプの時代」なるものが仮にあるとして、それはいつ始まったのか。筆者は一九九〇年代だと答える。映像文化においては疑似ドキュメンタリーが盛んに撮られるようになり、デジタル合成技術の飛躍的向上やインターネットの普及といった情報革命が起こった九〇年代を、トランプ氏による劇場型政治手法(ポピュリズム)の源流と考えるからだ。
極論すればそれは、虚実の区別が軽視され、その境が技術的に曖昧(あいまい)化され、まことしやかな噓(うそ)がひろまりやすくなった情報詐術の時代と言える。まことしやかの質が、ただ真実味が感じられるという程度の語り口ではなくなっていることも注目すべき特徴である。
つくりごとのドラマに迫真性…