寅さんを愛した作家、住井すゑ 山田洋次監督が語る素顔
「おい、労働者諸君」――。こんな寅さん節をこよなく愛した反骨の作家がいる。住井すゑ。90歳で差別と闘う人を描いた大河小説「橋のない川」を完成させた。映画監督の山田洋次さん(89)は、茨城県牛久沼のほとりに立つ住井の旧宅「抱樸舎(ほうぼくしゃ)」で対談したのをきっかけに、親交を深めた。「男はつらいよ」シリーズには、沼につながる川沿いの団地でロケをした作品もある。「巨木のような人」と住井を敬慕する山田さんに、思い出を語ってもらった。
夢中で読んだ「橋のない川」
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《青年期、住井の大河小説「橋のない川」に夢中になった。松竹・大船撮影所に通う電車の中で胸を躍らせながら読んだ》
住井さんは、少女時代から被差別部落に対する偏見が、どんなにおぞましいかを知っていたのです。
僕が少年時代を過ごした旧満州(中国東北部)では、日本人は中国人、朝鮮人を明確に差別していた。思い出すのもつらいけど、例えば、人力車を引く中国人の車夫が賃金の支払いで文句を言うと、平手で殴るみたいな。差別する側にいた僕には、子ども心に痛々しい感覚はあったわけ。
住井さんは(差別に対する)怒りを、少女の頃から感じていた。それが人間として決して許せないことを知っていた。僕は自分の体験を重ね合わせながら、あの本を読みました。
「寅さんの世界は差別がない」
《住井との対談があったのは1983年。抱樸舎には400人以上が押し寄せた。会場には入りきらないため、庭のスピーカーから音声を流したという》
とても気持ちがいい会でした…
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