家出願望、名物ゼミ、論壇時評…見田宗介さんが6年前に語った半生
社会学者の見田宗介(みた・むねすけ)さんが4月1日、亡くなりました。84歳でした。朝日新聞夕刊で2016年1月に連載した「人生の贈りもの わたしの半生」(計10回)を朝日新聞デジタルに再掲します。
時空またぐ構造と原理を見晴らす
――世界はまた、陰惨なテロが相次いでいます。
無論、許されざる行為に違いありません。ただ、率直に言えば、僕はどこか既視感も覚えてしまうのですね。
2001年の米同時多発テロの際、バビロンの滅亡を描いた、新約聖書「ヨハネ黙示録」を思い起こしました。圧倒的な軍事力と経済力を誇った都の消失に、不遇だった古代のキリスト教徒らが快哉(かいさい)を叫ぶくだりです。もう一つ、「関係の絶対性」という、思想家・吉本隆明の言葉も頭に浮かんだ。骨がらみの社会関係が生みだす、絶対的な憎悪や怨恨(えんこん)の感情のことです。
悲劇が連鎖していく問題の核心には、千年、二千年の時空をまたいで生き延びる、構造と原理が横たわっている。
――盛り上がりをみせた安保法制論議より、原発再稼働に注目されています。
日本を危うくする安保問題と、人類を危うくする原発問題ですね。あれだけの事故を経験しながら、原発依存の経済構造、成長神話から転換できない現実があるわけです。
貧困や公害など、資本主義の様々な矛盾を乗り越える、あるべき自由な社会のことを、僕は「新しく転回された〈情報化/消費化社会〉」と呼んできました。人々が経済競争の強迫から解放され、アートや文学や友情など、自然を破壊しない幸福を追求する。そんなイメージです。
理想論ではありません。現代社会は、爆発的な変化を体現した近代の曲がり角を超え、未来の安定平衡期に軟着陸するまでの過渡期にある。統計の上からも明らかです。でも、人は自分が立つ場所の外に想像力を働かせるのが難しい。自明性の罠(わな)、ですね。
――危機の時代に、社会学者の活躍が目立ちます。教え子の方も多いですね。
複雑さを増す社会の問題を解…