日本を代表する料理と言える「すし」の原型は、魚をごはんに漬け込んで発酵させる「なれずし」だと言われる。タイに伝わる「プラーソム」も、そんななれずしのひとつだ。実は、これこそがすしの源流だとも言われる、伝統の食材である。
その日は、私の46回目の誕生日だった。ちょうど首都バンコクに出張していたため、郊外の屋台にタイの友人たちが集まってくれていた。「ハッピーバースデー!」。お祝いの言葉とともに出てきたのは、こんがりと揚がった魚。「これがプラーソム。さあ食べて!」
勢いに押されて、はしでひとかけら、口に放り込んでみる。塩っぽさが前面に出るが、その後にほのかな酸味と、しっかりしたうまみが染み出てくる。これが伝統の味か。「アロイ(うまい)!」とにやけた顔で言うと、友人たちは大爆笑。宴会は盛り上がり、夜が更けていった。
タイ語でプラーソムとは、酸っぱい魚という意味だ。本場のタイ東北部の言葉では「パーソム」と発音され、隣国ラオスでは「ソムパー」と呼ばれる。
友人たちがプラーソムをわざわざ用意してくれていたのは、しばらく前に会ったときに私が「食べてみたい」と言ったからだった。
そもそも話のきっかけは「好きな日本の食べものは?」という質問だった。
こういう時、私は決まって「ふなずし」と答える。魚をごはんともに漬け込んで乳酸発酵させる「なれずし」の一種で、滋賀県の名産品だ。
ちなみになれずしは、日本では奈良時代の記録に登場する。これが少しずつ進化した結果、江戸時代になって乳酸発酵ではなく、お酢で酸味をつける今のすしになったと言われている。
そんな話をしていたら「タイにも似た食材がある」という話になった。それがプラーソムだったのだ。
ちなみにふなずしの場合、フナを塩漬けにして数カ月置いた後、ごはんと一緒にさらに数カ月寝かせるのが一般的だ。フナは発酵が進んでフニャフニャになっていて、私はそれを生で食べる。
でも、目の前のプラーソムは素揚げ。「生では食べないの?」と聞いてみても、友人たちは首を横に振る。生では食べないのだろうか。
翌週、バンコクの中心部にあ…
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