「もう1人保育士を!」訴え行進 国の「配置基準」引き上げ求める
【愛知】保育士1人あたりが見ていい子どもの数を定めた国の「配置基準」の引き上げを求める声が、現場から上がっている。保育士の負担が重く、子どもの安全や豊かな育ちが守られない恐れがあるという。愛知県では、保育士や保護者が実行委員会をつくって見直しを訴えている。
「世界子どもの日」の20日、名古屋市中区で保育士配置基準の引き上げを求めるパレードがあった。集まったのは県内外の保育士や保護者、子どもたち約900人。鈴や手作りのマラカスを鳴らしながら1キロほどの区間を練り歩いた。
いまの配置基準では、保育士1人あたりが見ていい子どもの数は0歳児は3人▽1・2歳児は6人▽3歳児は20人▽4・5歳児は30人。これまで0~3歳児の基準は少しずつ見直されてきたが、4・5歳児は戦後70年以上、一度も変わっていない。
パレードを主催したのは「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」だ。結成のきっかけは2020年春、新型コロナの感染拡大で保育園への登園自粛が呼びかけられ、普段より保育士1人あたりが見る子どもの数が減ったことだった。「一人ひとりに目が行き届きやすく、いまの配置基準の劣悪さを再認識した」。実行委のメンバーで保育士の田境敦さん(36)はそう話す。
現状の課題を浮き彫りにしようと、実行委は保育施設の職員と保護者にそれぞれアンケートをした。職員へのアンケートは2~4月に実施し、県内外の2648人から回答を得た。
いまの配置基準では子どもの命と安全を守れないと思う場面(あてはまるすべてを選択)は、「地震・火災など災害時」が84%で最も高く、「お散歩」60%、「防犯上」59%、「プールなど水遊び」58%と続いた。
保育制度に詳しい日本福祉大学の中村強士准教授は「災害時という非常時だけでなく、散歩やプールといった日常の活動でも保育士は子どもの安全に不安を感じていることになる」と指摘する。
現状で十分にできないと感じるもの(同)については、「子どもとの関わり」が72%と最多で、次点は「休暇取得」と「保育計画など事務」の52%だった。切実な声も寄せられた=表。
子どもを預ける保護者はどうか。実行委が4~7月に実施したアンケートには1467人が回答を寄せた。
職員が足りていないと感じる場面に遭遇した人は約80%だった。保育園の送迎時、保育士が忙しそうで声をかけづらいと感じたことが「ある」という回答も90%近くにのぼった。
実行委のメンバーは、アンケート結果について15日に県庁で会見を開いて報告した。子どもを私立園に通わせている小俣徹哉さん(35)は、「保育士のよりよい労働環境の整備を願う声が保護者からも上がっている」と説明。4人の子どもがおり、通算9年にわたって公立園を利用している堀川育恵さん(38)は「生まれてから最初の6年間だからこそ、『先生、聞いて』という小さな声がたくさん拾われることを願います」と訴えた。
保育士として40年のキャリアがある社会福祉法人・熱田福祉会の平松知子理事長(60)は「大事にされた子は人を大事にする大人に育つ。日本中どこで生まれても豊かな保育で子どもの育ちを守れるよう、配置基準の抜本的な改善を強く求めたい」と話している。
保育施設の職員アンケートで寄せられた声
・避難訓練で0歳児2人はおんぶと抱っこできるけど、3人目はどうすることもできないと不安になる
・散歩でも横断歩道を渡るときなど危険だと感じる。歩けなくなった子につくとほかの子どもたちが見られず危険
・食事の時、丁寧に接してあげたいと思うが、お茶をこぼしたり、スプーンを落としたりした子の対応に追われ十分にできない
・子どもたちの「やりたい!」をかなえてあげたいけど、「いま先生1人だからできないんだよね~」と言うのがつらい