帰宅後に電池切れで動けない 「やる気エンジン」を1回だけかけよう
「帰宅後電池切れの私はどうしたらいいのか」。こんな相談をよく受けます。
ADHDの診断を受けた40代女性のリョウさん(仮名)もまた、仕事から夕方帰宅すると、まずソファでぐったりして、お菓子を食べます。夕食を作る気持ちにも、洗濯物をたたむ気にもならず、電池切れのまま1時間は寝ています。
ふと気づけば午後7時になっていて、ご飯を慌てて作り出すという日々です。
リョウ「なんで仕事が終わった後も、こんなしんどいんだろう。人生って辛い。」
こんなときの解決法を「やる気」の観点から提案します。
認知行動療法では、何かにやる気を出す時に必要なエネルギーを「活性化エネルギー」と呼んでいます。「よいしょ」と重い腰を上げる時の、あの力です。
活性化エネルギーについては、以下のことがわかっています。
① 物事をやり始める最初が一番エネルギーを要する。
② 活性化エネルギーを出す回数は少ない方がいい。
どういうことでしょうか?
① 物事をやり始める最初が一番エネルギーを要する。
これについては、みなさん経験があるはずです。「朝起きるの嫌だな」と思いながらも、いったん起きて顔を洗ってしまえば、そこからは着替えて、ご飯を食べて……と自動的に体が動いているかもしれません。起き出す時に一番エネルギーを使うのですね。
同様に、やりたくない掃除も書類書きも、案外始まるとハマる人がいます。
最近話題になった、散らかって物だらけの自分の家を掃除するだけでなく、DIYで壁を塗り替えたり、床を張りなおしたり、見事なインテリアにしていく2年間のYouTube動画がありました。それをみていても、「わあ、これだけの台所やクローゼットの物を片付けるのおっくうだったろうな。よく始めたなあ。でもこの人は、たぶん途中からはおっくうを通り越して、楽しくなってるんだろうな」と思いました。
ですから、リョウさんの夕方の例でいけば、疲れて帰宅した夕方に、いきなり「夕飯はご飯を炊いて、みそ汁を作り、肉じゃがを作って、小鉢には……」とハードルを上げた夕食を想定すれば、相当な量の活性化エネルギーを必要としてしまいます。
そうではなくて、「夕食は、レンジでチンしたごはんと、焼き魚、みそ汁はとりあえずわかめだけの具でいっか」「出前をとるか」「近所のコンビニで買ってこようか」「冷凍庫にある牛丼の元を使おう」などハードルを下げておきます。
こうしたテクニックはこのコラムでも繰り返しお伝えしておりますので、いつもお読みいただいているみなさまにとっては新鮮味のない話でしょう。
今回お伝えしたいのは、こちらです。
② 活性化エネルギーを出す回数は少ない方がいい。
活性化エネルギーは、車のエンジンと同じで、いったんエンジンがかかれば、理想的には、あまり停車せずにそのまま一定の速度で走る方が燃費はいいのです。街中の渋滞でなんども停車と発進を繰り返すのは、よくないのです。それと同様に、一度やる気を出せば、そこからやるべきことをノンストップで、ひとつなぎにしてこなせれば最も省エネなのです。
それをそのままリョウさんの夕方に応用しようとすればこうなるでしょう。
リョウさんは夕方帰宅して、一息もつかずにテキパキと夕食の準備をこなして、洗濯物を畳んで、お風呂の準備をして……。
いやいやいやいや、それができないほど疲れているから困っているのです。
反対に現在のリョウさんは図のようなかんじで、帰宅してすぐ休み(1度目の休憩)、沼のソファから起き出して活性化エネルギーを搾り出して夕食を作ります。夕食後はおなかいっぱいになって、ごろんとテレビを見ます(2度目の休憩)。うっかりうたた寝をしてしまうので、お風呂に入るための活性化エネルギーをまた出すことになるのです。
夕方から寝るまでの間に新たに2回も活性化エネルギーを出すわけですから、きついでしょう。
出せればいいですが、そのまま夜中まで寝てしまった日には、リョウさんは心底落ち込みます。
「帰宅後すぐおふろ」のススメ
さて、改善案です。
夕方のしんどさを取り、かつ、その後のやるべきことを減らすには、帰宅後すぐにお風呂に入るプランを推奨しています。そうすれば、体が温まり疲れが取れ、清潔になった爽快感と、血行もよくなるので眠気もいったん覚めます。おまけにすぐに洗濯にとりかかれます(夜洗濯派の場合)。
「帰宅後すぐ」がポイントです。一息もつかずに、帰宅後手を洗う習慣と同じように、すぐに入るのです。この時点でまだ休憩をしていないのに疲れは取ることができているので、次の動作(夕食作り)へは活性化エネルギーを新たに必要とはしません。ひとつなぎで移行できるわけです。
夕食を食べたあとには、すぐに片付けましょう。先に風呂に入っているので、ちょうどこの頃、体温が下がり始めて眠気がきています。もし食器を洗う余力がなければ翌朝の自分に期待して、早めに寝てしまってもいいでしょう。
いかがでしょうか?
活性化エネルギーの性質を用いたやる気の出し方の応用編としては、朝起きてから家を出るまでの時間にも使えます。
朝起きてからやること(モーニングルーチン)が決まっている人は、起きさえしてしまえば、あとは洗顔のあとは、木に水をやって、そのついでにカーテンを開けて……のようにやることの順番がひとつなぎに決まっているので、活性化エネルギーは1回出すだけですみます。
しかし、ルーチンが固定されていない人は、「あの服を着ようかな」「あ、マスクどこだっけ」「やばいパンが焦げた」とあっちへこっちへバタバタしていて、タスクに振り回されその都度、活性化エネルギーを出し続ける羽目になるので、消耗しがちです。
要は計画立てさえしておけば、やる気も出しやすいし、疲れにくいということですね
毎日の暮らしに役立ててみてください。
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連載上手に悩むとラクになる
この連載の一覧を見る- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。