改善もあるが課題も山積み「医療的ケア児支援法」施行2年
たんの吸引やチューブを使って栄養を補給するといったサポートが必要な「医療的ケア児」と家族を支援する「医療的ケア児支援法」が2021年9月に施行され、2年が経つ。国や自治体などの支援は「努力義務」から「責務」となったが、子どもたちや家族を取り巻く状況は改善したのか。県内の動きを取材した。
昨年6月、医療的ケア児とその家族が相談できる県の窓口が初めてできた。青森市の県立中央病院内に設けられた県小児在宅支援センターだ。
センターができる前、青森市の福士裕美さん(41)は、医療的ケア児の長男叶都(かなと)君(7)の保育所を探すため、約30カ所の保育所に自ら電話をしたが、受け入れ先が見つからなかった経験がある。福士さんは勤めていた病院を辞めざるを得なかった。
新設のセンターは誰でも相談でき、医療的ケア児が保育や教育などを受けられるよう施設探しなどに協力している。昨年度はのべ167人の相談に対応した。センターでは医師や看護師などが事業所に直接出向き、指導や助言なども行っている。網塚貴介センター長は「困っているが一歩を踏み出せない人が、センターを利用してくれれば」と呼びかける。
窓口はできたが、受け入れ先の数はどうか。県によると、障害のある6~18歳の児童、生徒を受け入れる放課後等デイサービスの中で、医療的ケア児に対応できる事業所は20年に15カ所だったが、22年には29カ所に増えた。このうち民間の1カ所では、たんの吸引や人工呼吸器の管理など全ての症例に対応している。それが、青森市で児童発達支援などを手がけるBluebellが運営する「サクラサクいしえ」だ。
管理者兼児童発達支援管理責任者として働く浅利優子さん(48)は、広告デザインの仕事をしていた36歳の時にがんを患った。それを機に保育士へ転身し、働くうちに医療的ケア児のサポートへの思いが強くなった。「生かされた命で、世の中の助けになるような仕事をしていきたい」と話す。
事業所で働く他の職員たちにも強い思いがある。看護師の大澤磨美さん(47)の長女は、かつて医療的ケア児だった。現在は20代に成長したが、自身の経験を生かせる職場で働きたいとこの事業所に来た。「私も、ここに来る子どもや家族も色々とつらい思いをしている。助けになりたい」
同じく看護師の青山梨奈さん(26)は、総合病院の看護師だった時にテレビ番組で医療的ケア児に対応する看護師が不足しているのを知り、転職した。「毎日子どもたちから元気をもらいながら、過ごしている」とやりがいを語る。
ただ、民間事業者の経営環境は厳しい。医療的ケア児の受け入れに必要な看護師の数は、たんの吸引や栄養補給など医療行為の数で変わる。医療行為の少ない子どもだと看護師1人で3人まで対応できるが、多くの医療行為が必要だと看護師1人で1人の子どもに対応しなければならない。
だが、看護師が出勤していても、子どもが急に体調を崩して来所しないことも少なくない。この場合、看護師の人件費はかかるが収入はなくなる。医療的ケア児の事業だけでは赤字で、他の事業収益で補塡(ほてん)して経営を続ける事業所もあるという。
サービスを利用する福士さんは「民間で手を挙げてくれて、すごく助かっているお母さんがいると思う。どうにか継続してほしい」と望む。持続可能な運営のため、行政のサポートが求められる。
医療的ケア児の移動手段も大きな課題だ。県内では多くの保護者が車で学校や事業所への送り迎えを行っており、負担が重くなっている。
大阪府では府の制度で介護タクシーの利用が可能だ。タクシーが自宅に子どもを迎えに行き、看護師などが学校まで添乗する。県内でも県障害者自立支援協議会・医療的ケア児支援体制検討部会の場でここ数年、保護者や委員から送迎支援を求める声が上がっているが、整備は進んでいない。
法施行から2年。浅利さんは「障がいのある子どもの親は自由な時間がなくて当たり前、ケアしているのが当たり前という概念を取り払い、事業所を利用することで自分の時間を取り戻してほしい」と話す。
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青森朝日放送(ABA)では5月、医療的ケア児とその家族を2020年から約3年間取材した「ABAドキュメント 命をつなぐ~医療的ケア児と生きる家族」を放送。番組は今年の日本民間放送連盟賞、北海道・東北地区のテレビ教養部門で優秀賞を受賞した。19日(火)午前1時35分~2時半に再放送する。
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