Re:Ron連載「社会のかたち 越直美の実践」第2回
9月28日は私にとって忘れられない日です。
いじめ防止対策推進法が2013年のこの日に施行されたからです。実はこの法律は、私が市長をつとめた大津市のいじめ事件を契機に制定されました。
それから10年……。私は10年という年数に危機感を覚えます。というのは、大津の事件の前も、およそ10年ごとに、東京都中野区、愛知県西尾市、北海道滝川市などで大きく報道される事件があり、そのときはいじめの報道がされて関心が高まるものの、年月が経つにつれ忘れられ、また、大きく報道される事件が起こるという繰り返しだったからです。
この間も多くの子どもが亡くなっています。子どもの自殺は増加傾向です。気になるのは、文部科学省の2021年度調査で、全国の中学生の自殺のうち、いじめが原因とされるケースが4%という点です。その一方で「原因不明」が63%もある。原因不明の中にいじめが関係するものがある気がしてなりません。今なお、多くの事件が闇に葬られているのではないでしょうか。
Re:Ron連載第2回の本稿では、大津市の事件を振り返りつつ、子どもの命を守るために必要なことは何か。法改正や教育委員会制度のあり方を含めて、あらためて考えます。
背筋が凍った「イジメか?」のメモ
2011年10月11日、大津市立中学校に通う2年生の生徒が自ら命を絶ちました。約3カ月後の12年1月、私は市長に就任しました。就任から半年後の7月、事件が大きく報道され、滋賀県警が生徒の通っていた中学校や大津市教育委員会に対する捜査を行いました。
県警に押収された資料は、今まで見たことがないものばかりでした。その中に「イジメか?」という教員のメモがありました。生徒が亡くなる前に書かれたものです。背筋が凍りました。それまで教育委員会は、「調査をして、いじめがあったと分かったが、生徒が亡くなる前は、学校はいじめに気付かなかった」と言っていたからです。
私が市長になる前に行われた調査は、名ばかりのいい加減なものだったのです。
教育委員会に裏切られたことへの怒り。教育委員会を信じていた自分への憤りがこみ上げました。ご遺族に謝罪するとともに、市長のもとで第三者調査委員会を立ち上げると決めました。
教育委員会は反対しました。再調査をすると、周りの子どもが傷つくという「教育的配慮」が理由です。しかし、県警が押収した資料には同学年の中学生へのアンケートがあり、「亡くなった子どものために真実を明らかにしてください」と書かれていました。“教育ムラ”は「教育的配慮」という大人の言葉で事を荒立てないようにしていただけで、子どもの本当の声を聴いていたわけではなかったのです。
謝罪をしたとき、ご遺族が持つ遺影を見て私は涙があふれました。中学2年生で命を絶たなければならなかったのは、どれだけ無念でつらかったか……。「市長を信頼して任せる。子どもに対する思いで調査してほしい」という遺族の言葉に、私は背中を押されました。
報告書に涙したご遺族だったが……
2012年8月、市長のもとに第三者調査委員会を立ち上げました。委員は、大学教授、弁護士ら外部専門家の6人。いじめに関連してこうした委員会がつくられたのは初めてでした。約5カ月の調査を経て13年1月、231ページの報告書が提出されました。
報告書には、いじめの事実、自殺の原因、学校と教育委員会の対応、再発防止策が書かれていました。学校で何があったかを知りたい、二度と同じようなことが起こってほしくない、というご遺族の思いにこたえるもので、報告書を手にしたご遺族は涙を流されました。
これを契機に同年6月28日にいじめ防止対策推進法が公布され、3カ月後に施行。ご遺族は「法律は息子が生まれ変わったものだ」とおっしゃっていました。それから10年。亡くなった生徒のご命日には毎年、お参りに行き、ご遺族とお話をしますが、今、ご遺族は「実効性に乏しい脆弱(ぜいじゃく)な法律だ」と言われます。
同法には、「施行後3年を目途として、検討が加えられ、必要があると認められるときは、必要な措置が講ぜられるものとする」とあります。しかし、私の市長在任中も、国会で法改正の議論がされましたが、改正されませんでした。この法律は国会議員が議論してつくられた議員立法です。国会にはもう一度、いじめの現状と法律の問題に目を向けてほしいと思います。
なぜ、「実効性に乏しい脆弱…