第1回「鉄火場の外交官」橋本恕の暗躍 天皇訪中へ交渉、日中から信頼厚く

有料記事

編集委員・藤田直央
[PR]

 「鉄火場の外交官」。没後10年近くになる今も、畏敬(いけい)の念を込めて後輩にそう呼ばれる人物がいる。橋本恕(ひろし)・元駐中国大使。1992年10月の初の天皇訪中の実現にこぎつけるまでの暗躍ぶりが、外務省が20日に公開した記録からわかった。

 92年2月29日、北京。天皇訪中の際の行事などを相談したいという徐敦信外務次官に対し、橋本大使は「もし御訪中が日中友好増進に寄与しないという状況に立ち至れば、中止すべきである」と告げた。同日付で橋本氏が外相宛てに送った「極秘・限定配布」の公電に記されていた。

 橋本氏とやり取りしてきた徐氏にすれば、肝を冷やす発言だ。89年に即位した天皇陛下(今の上皇さま)の訪中は、日中関係を発展させようと中国首脳らが再三求め、国交正常化20周年を迎える92年中に実現すべく年初に調整が始まったところだった。

 橋本流の牽制(けんせい)だ…

この記事は有料記事です。残り1512文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
藤田直央
編集委員|政治・外交・憲法
専門・関心分野
日本の内政・外交、近現代史
  • commentatorHeader
    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2023年12月20日12時35分 投稿
    【視点】

    日中関係の一つのクライマックスが1992年の天皇訪中だが、その当否・妥当性は、改めて検証すべき。独裁と抑圧を深める中国を甘やかした側面があるからだ。  友好は一見良いことのように見える。しかし、天安門事件の3年後に当たるこの時期、天皇の訪中

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2023年12月23日7時24分 投稿
    【視点】

    年末恒例の外務省による外交記録公開を取材班キャップとして担当しました。30年経てば原則公開とはいえ出ない文書もありますが、今年はよく出た方だと思います。メーンは1992年の天皇訪中。日中関係や天皇のあり方など極めて多様な論点があり、今日的な

    …続きを読む

連載天皇訪中へ 曲折の舞台裏(全11回)

この連載の一覧を見る