第1回「ロシアに行く」その日はもう来ない 150m先の隣国、少年の葛藤

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エストニア東部ナルバ=藤原学思
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連載 ロシアの隣で エストニアの危機感①:国境沿いの街

 視界は、二つの国を同時にとらえる。

 東にロシア、西にエストニア。川によって隔てられ、両岸には150メートルほどの橋がかかる。両国を行き交う人びとやバスが見える。

 2023年12月中旬、エストニア東部ナルバ。北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)とロシアは、この街で分かれる。

【連載】ロシアの隣で エストニアの危機感

ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まって、2月24日で丸2年を迎えます。ロシアの隣国であるということは、どういう意味を持つのか。エストニアの人々の思いや、ここ2年で起きた変化を通じて伝えます。

 零下の川沿いを歩く市民は少ない。そんななか、ニット帽をかぶり、手袋をして、雪かきをする少年がいた。17歳の高校2年。ここで生まれ育ったという。

 「特別なことはなく、ただただ、退屈な街ですよ」

ウクライナ侵攻で離れた心の距離

 白い息を吐き、少年は笑う。両親のルーツは、ロシアとウクライナ。いまは家族でエストニアで暮らす。

 「自分が何人なのか、自分でもよくわからない」

 少年が口にしたその言葉は…

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この記事を書いた人
藤原学思
ロンドン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、英国政治、偽情報、陰謀論
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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2024年1月27日11時0分 投稿
    【視点】

    第170回直木賞候補となった宮内悠介の『ラウリ・クースクを探して』という小説は、まさにこのエストニアの葛藤を深く踏まえながら「知性」「心」とは何かを描き抜く傑作小説であり、エストニアに、というよりこのタイプの問題にちょっとでも関心のある人な

    …続きを読む
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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2024年1月27日21時43分 投稿
    【視点】

    国境とは何なのか、国籍とは何なのか、ナショナル・アイデンティティとは何なのかを問う良記事。ロシアのウクライナ侵攻でハイライトされるようになった「ロシア人」としての国籍とアイデンティティの問題だが、こうした問題は世界中の多くの場所で見られるも

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