第1回ノーキッズゾーンに塾ぐるぐる…「韓国脱出」東京に移住した母の決意

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安仁周 ソウル=稲田清英
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 2月中旬。東京都内の公園で久しぶりに会ったソウル出身の韓国人の女性(39)は、日本での子育ての定番アイテムとともに現れた。

 約20万円で購入した「電動アシスト付き自転車」だ。「高くてちゅうちょしたけど、もっと早く買えば良かった」

 韓国で長年勤めた大手企業を辞め、日本で転職を決めたばかり。その吹っ切れたような表情からも、ソウルの生活では乗る機会がほぼなかったはずの自転車を購入したことからも、移住先の東京で暮らしていくという強い覚悟を感じた。

 「東京の居心地が良くて、夫も呼んで、家族で定住するつもり。韓国に戻れば、また子どもたちに塾をはしごさせる日々が待っている。韓国とは違う方法で子育てをしてみたい」

 そんな思いを昨年、女性から打ち明けられた時は驚いた。女性は休職して2人の子どもを連れ、東京の大学院に留学中だった。でも、同じソウル生まれで年齢も同じ私(安)は「その気持ち、わかるなあ」とも思ったのだ。彼女の言う日本の「居心地良さ」とはこんな感じだ。過剰なまでに競争するような雰囲気がない、街全体が子どもを「拒否」していない……。

 実は私もここ数年、5歳の娘と3歳の息子を連れて韓国に帰国するたびにそう感じるようになっていた。息子がバスの中でおしゃべりをすると何度も注意されたり、娘が体調不良でぐずっていると冷たい目で見られたりした。現地でも賛否両論はあるが、「ノーキッズゾーン(子どもお断り)」の表示を掲げるカフェなども見られるようになっている。知人から「ノーキッズゾーンの飲食店があるから、確認して入ったほうがいいよ」と初めて聞いた時は耳を疑った。

 私が知っている「おせっかい」なほどのやさしい雰囲気が、どこかに行ってしまったようで、戸惑った。彼女も、そうした視線を敏感に感じ取っていた。

 それでも、わざわざ移住までする? まだ納得がいかない私が詳しく尋ねると、それは「韓国脱出」とも感じられるものだった。

【連載】「出生率0.72」の韓国 超少子化社会のリアル

世界的にも異例のスピードで少子化が進む韓国。出生率が低下し続ける背景には何があるのか。同じ悩みを抱える日本にとっても人ごとではない隣国の「リアル」を探ろうと、3人の記者が取材に向かいました。

 東京移住の決め手になったの…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年2月28日14時53分 投稿
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    子どものよりよい人生、よりよい暮らしを求めてよりよい学校、よりよい会社、よりよい…を目指す。そんな育てる側の親の学歴重視の価値観が育てられる側の子どもに影響を与えること、親の学歴重視の価値観に沿った子育てがうまくいかないと感じたとき、うまく

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    藤田結子
    (社会学者)
    2024年2月29日9時6分 投稿
    【視点】

    「過剰なまでに競争するような雰囲気がない」「街全体が子どもを「拒否」していない」。これらが、韓国出身の子育て中の女性が、東京に対する印象ということに驚きました。 なぜなら、これらは日本の母親たちが、欧米や他のアジアの国に対して、しばし

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