人柄・政策以前に「石丸氏しか登場せず」 選挙結果の冷静な検証を

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聞き手・大内悟史
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 7日に投開票された東京都知事選の結果をどう受け止めるか、メディアやネット上の議論が続いている。話題の多くをさらっているのは、2位の石丸伸二氏だ。選挙後の言論空間をどう見ればいいのか、現代のメディア状況に詳しい社会学者で関西学院大教授の鈴木謙介さん(48)に聞いた。

 ――都知事選の結果をどう見ますか

 最も多くの支持を集めて当選した現職の小池百合子氏がほぼ話題にならず、2位とはいえ落選した石丸氏の動静が話題になっています。選挙結果とメディアの注目を集める話題とのあいだに大きな開きがあるのが今回の選挙の特徴でしょう。

 民意は明らかで、現職が広く支持を集めました。日常的な政治活動や選挙活動は、支持者を増やし、1票でも多く得て選挙に勝つためのもの。現職は「減点」されないように淡々と、粛々とした選挙戦に努めていました。もともと知名度が高いので、話題にならないくらいがちょうどいい。

 一方で、現職以外の多くは「加点」を得ようと、つまり少しでも目立とうとして様々な動きを繰り広げました。目立つことそのものを目的とした候補者も多く、ポスターや街頭演説、政見放送のあり方などが注目されましたが、メディアで目立っても選挙に勝てるとは限りません。本来検証されるべき政策論議とはかけ離れた選挙戦になり、多くのメディアも話題づくりに振り回され、現職の2期8年を検証する報道が足りませんでした。

 ――次期衆院選を控え、今回の結果は国政にも影響しますか

 米国を見ても、たとえばニューヨークの州知事選や市長選が大統領になる近道かというと必ずしもそうではありません。地方公共団体の選挙も直近の民意を示す指標ですが、国政進出の足がかりになるかといえば未知数でしょう。

単純に「石丸氏の動画だけが大量に流れた」

 ――石丸氏が支持を集めた理由をどう見ますか

 支持が広がった要因は「単純接触効果」という心理学の知見から説明できます。繰り返し接すると好意度が高まり印象がよくなるという効果が働いた。誰が支持されたか、その理由は人柄か政策かといった話以前に、石丸氏に投票した人が接触するメディア上には「石丸氏しか登場しなかった」のです。

政党の組織的支援や地盤がない中で2位の票を得た石丸氏。その衝撃に様々な「分析」がなされていますが、鈴木教授は「強引に解釈しようとすれば無理が生じる」と警鐘を鳴らします。有権者、メディアに求められることは。

 NHK放送文化研究所の「メ…

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この記事を書いた人
大内悟史
文化部|論壇・読書面担当
専門・関心分野
社会学、政治学、哲学、歴史、文学など
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    綿野恵太
    (文筆家)
    2024年7月17日11時0分 投稿
    【視点】

    記事の中の「事実」と「物語」は区別すべきというご指摘は大事ですね。Twitterでは特にそうですが、石丸氏の躍進のショックから、野党支持者を中心に自分達にとって都合のいい「物語」ばかりが出回っている印象があります。しかも、どうもその物語が事

    …続きを読む
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    富永京子
    (立命館大学准教授=社会運動論)
    2024年7月17日22時35分 投稿
    【視点】

    「立ち止まってじっくり考えるべき」「強引に解釈しようとすれば無理が生じる」という記者の方と鈴木先生の前提は共有しますが、本選挙に特化した調査データが出てこない(少なくとも引用はされていない)状態で「単純接触効果」と「SNS利用」と「石丸支持

    …続きを読む