1955年が暮れに近づく頃、兵庫高校に新しい楽器が一つやってきた。
金色に輝くトランペット。
ほとんどの生徒にとっては、初めて見る楽器だった。吹いても、音が出ない。
でも、投げ出すわけにはいかなかった。
「永遠のライバル」神戸高校に何とか対抗したい――。生徒の間にそんな思いが広がっていたからだ。
毎年の野球の定期戦で、バンカラなこちらの応援はホラ貝と太鼓の踊り。かたや神戸高校は、ブラスバンドが行進曲を奏でていた。
「文化の面でも対抗したい」と、文化祭の収益金を持った生徒会長が神戸・元町の楽器店で買ってきたのが、トランペットだった。
8人の素人、不器用な産声の音色
生徒会は、楽器を増やすための募金も始めた。
「いかにブラスバンドが必要であるか」
次の代の生徒会長になった一ノ瀬篤さん(84)も各教室を回ってそう演説を打ち、お金を入れるぼろぼろの制帽を回した。
多くの生徒は同じ気持ちだっ…
【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら