第2回妻となるアニータと出会ったスナック クリスマスの思い出話に涙した

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坂本泰紀
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 《1997年3月のある夜。青森県住宅供給公社の経理担当だった千田郁司(ちだゆうじ)は、青森港に近い繁華街をあてもなく歩いていた》

 その夜は公社の歓送迎会だったけど、途中で会場を抜け出したんだよね。公社は青森県庁から天下ってくる人間が多くて、県の係長クラスがぼこっときて課長になるけど、俺みたいなプロパーは頑張っても係長どまり。

 普段は「天下りの廃止求めようぜ」なんて、くさしているプロパーの連中が、飲み会では、天下ってきた連中の献杯に行く。そういう寒い光景を見るのが嫌になって、会場を出たんですよ。

 二十年近く勤めてきたけど、バカらしくなって、ぷつんと切れたのがあの夜だった。

 ふと見上げると、「エンゼル」というスナックの看板が目に入った。

 「さて、天使にでも会いに行くかな」って階段を上がっていった。いま振り返ると、それが運の尽きだったんだよね。

青森県住宅供給公社の巨額横領事件とは

23年前に発覚した青森県住宅供給公社を舞台にした14億円超の巨額横領事件。当時、青森支局員だった記者が、刑期を終えた元公社職員に50時間を超えるインタビューを行いました。彼が語った事件とは。連載の後半では、金を受け取ったとされるチリ人妻から届いたメッセージも紹介します。記事中の敬称は省略します。

 店に入ると水槽があって、エンゼルフィッシュが泳いでいた。「エンゼルって魚のことか」って思っていたら、日本人のママが出て来た。その後からぞろぞろと外国人や日本人の女の子たちが現れた。

 俺とママが座って、向こうのボックスには女の子たちが待機していた。

 「誰かお気に入りの子はいる?」って聞かれたから、「別に誰でもいいよ」って答えたら、「じゃあ、キャンディ」って、痩せてガリガリの外国人の子を呼んだんだよね。

 「この子、おなかが減っているの。向かいのお店に連れて行ってくれない?」。そうママに言われて、しょうがないから向かいの焼き鳥屋に連れて行った。

 牛串を頼んだら、「おいしい、おいしい」って。「店に戻るか」って聞いたら「ダメダメ。これからあなたと私、そこに行く」って指さしたのがホテルだった。俺は「帰るよ」って言ったけど、「帰るダメ。わたしなぐられる」。

 仕方なくホテルに行ったけど…

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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2024年10月14日11時1分 投稿
    【視点】

    「さて、天使にでも会いに行くかな」とかって、ぜったい過去情景を盛ってるでしょあんた!(笑) などと思いつつ、昭和の残り香を濃厚に残す平成初期の「心理的類型」の記憶としてもこの記事は極めて興味深い。 そしてこのドツボ展開、現代ならば千田郁司氏

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連載アニータの夫(全13回)

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