民俗資料を処分した町、呼んだ波紋 「誰かがやらねば大変なことに」

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聞き手・田玉恵美
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 価値のないものも受け入れてきた。廃棄も検討せざるをえない――。この夏、県立の博物館が所蔵する資料を処分する可能性について言及した奈良県知事の発言が波紋を呼びました。一方で、すでに「処分」を実行した自治体もあります。その決断の背景にどんな意図や苦悩があったのか。鳥取県北栄町の町立資料館の館長として「お別れ展示」を取り仕切った杉本裕史さんに聞きました。

 ――6年前に町立の資料館が所蔵していた資料の一部を手放すという決断をされました。大きな話題になったそうですね。

 「東京で開かれたフォーラムに招かれて報告をした際、『一石を投じた』ではなく、『岩を投げた』と言われました。同じような悩みを持っている自治体は全国的にも少なくないと聞いていましたが、それでも収集した資料を処分するのは禁じ手とされていましたからね」

 ――それでも踏み切ったのはなぜですか。

 「誰かが今やらないと大変なことになると思いました。当時、北栄町は約9500点の資料を所蔵していました。足踏み脱穀機や古いミシン、オルガンといった民具もたくさんあり、収蔵庫はすでに満杯。入りきらないものは旧集会施設や学校の空き教室などにまで置いていました。適切に整理もされていないため、展示などで有効活用しようにも難しい状態だったのです。このままでは新たに集めるべき資料を集めることもできなくなる。その思いから、一部はやむなく手放すことを決めました」

 ――手放すものはどうやって選んだのですか。

 「非常に幸運なことに、民具については重要度に応じたランクづけがちょうど終わっていたんです。県史を編纂(へんさん)していた鳥取県からこの分野に詳しい職員が町にやって来て民具調査をしたところでした。たとえば、北栄町は砂丘地を利用した農業がさかんな土地ですが、砂丘開拓の歴史を物語るような物的証拠には高いランクがつく一方、重複していたり同種のものが他にもあったりするものには低いランクがつく、といった具合です。これを参考に、ランクが低かった562点を『除籍』の対象としました。図書館が本を手放すときに使われる『除籍』という言葉で整理し、『廃棄』や『処分』は極力使わないようにしました」

 ――うしろめたさはなかったですか。

 「もちろんありました。本来…

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