変わってしまった東北の雨の降り方 対策追いつかず 東日本台風5年
宮城、福島両県などで甚大な被害となった東日本台風(台風19号)から12日で5年。この間も東北を狙い撃ちするかのように豪雨災害が相次ぎ、対策が追いつかない状況が続く。どう立ち向かうべきか。東北大大学院の風間聡(そう)教授(水工学)に聞いた。
東北地方の雨の降り方が、確実に変わってきている。
海面水温の上昇に伴って台風は強い勢力を長く保つようになり、北東北ではあまりなかった線状降水帯もしばしば発生。今年7月の山形の大雨は、最上川中下流域の観測地点5カ所すべてで72時間雨量が観測史上1位という「記録破り」となった。
同じ地域が繰り返し襲われる。最上川は過去5年で3回目の氾濫(はんらん)だった。宮城県の名蓋川は2015~22年の間に3度も堤防が決壊した。
これではダムや堤防では守り切れない。50年、100年に1度の降雨量に対応すべく、計画を立て整備しようにも、すぐ次の洪水が来てしまうのだ。
間に合わない分は、みんなで力を合わせてなんとかしよう、というのが「流域治水」。国土交通省は「総力戦」とも言っている。従来の河川行政の枠を超え、水田に雨水をためる田んぼダムや利水ダムの治水への利用、命を守る行動を促すための情報発信など、様々な取り組みが始まっている。
気候変動で豪雨が増えてゆく中、日本全体の水災害の被害額をシミュレーションする研究をしている。世界平均気温の工業化以前からの上昇を2度に抑える想定のシナリオ(RCP2・6)の場合でも、今のままでは2050年には被害額は3割以上膨らんでしまう。
だが、堤防など河川の整備を進めれば2割増、低層階は住居にしない、ピロティ方式にするなどの高床対策をとれば2割増、浸水の危険性がある場所に住まないようにするなど、土地利用規制策をとれば、被害は1割増まで抑えられる。さらに三つすべてを組み合わせれば、現状より2割被害を減らせる。
地域によって有効な対策は違う。都市部が広がる宮城県は高床対策が効果的。雄物川や北上川沿いに比較的大きな都市がある秋田、岩手県は、土地利用規制を進めた方がいい。相対的に水田面積が広い秋田県は田んぼダムも有効だ。
人口減が進む東北地方は、それを逆手にとってはどうか。
河川沿いの危ない場所にあり、人口減が著しい集落は、できるだけ安全な場所に移転を進めてもらう。その跡地をいざという時の遊水地にする。コンクリ張りの堤防を築いたり、インフラを維持したりする必要がなくなり、財源が浮く。その分を移転支援にあてればよい。
これからの水害対策は、他の政策と組み合わせることが必要で、省庁や行政機関の縦割りをどれだけ排せるかにかかっている。石破新政権が創設をめざす「防災庁」が、その役割を担えるのかどうか、注視したい。
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【2024年 山形、秋田県で大雨】
7月24~26日、梅雨前線の影響で東北の日本海側で大雨に。山形県では線状降水帯が発生、山形、秋田県各地で堤防が決壊。両県で5人が死亡
【2023年 秋田県で大雨】
7月14~16日、梅雨前線の影響で秋田県で大雨に。JR秋田駅周辺で内水氾濫が発生。1人死亡、約7千棟の住宅被害
【2022年 東北各地で大雨】
7月15~16日、前線の影響で宮城県を中心に激しい降雨。出来川、名蓋川で堤防が決壊
8月3日から線状降水帯の発生で秋田、山形県で激しい雨。最上川を中心に氾濫被害
8月9日からの前線に伴う大雨で、青森県の岩木川を中心に氾濫被害
【2021年 青森県で大雨】
8月9~10日、台風9号から変わった温帯低気圧の影響で青森県下北・上北地域で豪雨。高瀬川の堤防が決壊
【2020年 令和2年7月豪雨】
7月3~31日、前線停滞の影響で熊本県をはじめ日本各地で大雨。全国で死者84人。東北は27~29日に大雨が降り、山形県の最上川で氾濫被害
【2019年 東日本台風】
10月12日、台風19号が伊豆半島に上陸し、関東、東北と進んで甚大な被害に。宮城県の吉田川、福島県の阿武隈川などで堤防決壊。丸森町では内水氾濫が起き、土砂崩れも各地で発生。全国で約10万棟の住宅被害、100人超が犠牲に。福島、宮城両県で50人以上が死亡・行方不明となった
【東北地方の雨の変化】統計開始の1976年から2011年まで、時間雨量80ミリ以上の短時間豪雨は、東北ではほとんどなかった。12年以降は毎年のように発生し、回数も増えた。東北6県で雨量観測所がある164市町村のうち、過去10年間(14~23年)で時間雨量の最大記録を更新した所は112あり、36市町村では2回以上更新した。一方で、23年や21年夏の降雨量は東北各地で平年を大きく下回り、渇水が心配される状況となった。