第5回「クマ問題は人間問題だ」 日米の専門家は同じ認識も現場環境が大差

クマと生きる 悩むアメリカの現場から

伊藤恵里奈
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 「日本ではクマが出没すると、民間のハンターが駆り出される。行政の担当職員は数年で異動する場合が多く、野生動物管理の専門知識がある人は少ない」

 今夏、アメリカクロクマ対策の取材で米東海岸を訪れた際、日本の野生動物保護と管理の状況を話すと、驚かれた。米国でも市街地に出没するクマが増えて、悩まされている。

 「ボランティアではなく、専門家の仕事だ」

 取材に行った先々で対策に取り組む人々はこう話してくれた。

 日本では昨年度、クマによる人身被害が急増した。環境省によると、被害者は219人(6人死亡)に上る。私が勤務する岩手県内の被害件数は、秋田に次いで多く、死者も出た。積極的な捕獲を求める声と、保護を訴える声が対立し、現場では度々難しい判断に迫られた。

 対策にあたる最前線では、限られた人員と予算で最善を尽くしている。だが、それは、少数の「頑張り」に依存したものだ。

 地方自治体では、地域おこし協力隊の制度などを使って人材を募集する動きが広がっているが、いずれも期限付きで、応急措置にしかみえない。

 一方で、米労働省労働統計局によると、米国で動物学や野生動物管理学の専門家として州政府や調査機関などで働く人の平均年収は約7万5千ドル(約1100万円)に上る。10年、20年先の自身のキャリアと地域の野生動物管理の将来を見据えて仕事に励む人々が少なくない。

 そんな専門家を米国各地で取材し、両国の違いを実感した。

 「クマ問題は人間問題だ」という言葉は、日本でも米国でもよく聞く。だからこそ、米国では科学的な調査と同等に、住民への啓発教育や意識調査に力をいれている。

 例えば、マサチューセッツ州では昨年、野生鳥獣に関する啓発教育や、住民からの質問に対応する専門職を新たに設けた。ニューヨーク州では、コーネル大学と共同で、クマに関する住民の意識や許容度を定期的に調査し、クマの保護管理計画に役立てている。

 日本では、シカやイノシシなどによる農業や林業の被害も年々深刻になっている。都市部でも野生鳥獣の問題と無縁ではない。

 今後こうした課題にどう取り組むか。野生鳥獣の管理を「人間側の問題」として捉え、持続可能な働き方を前提とした議論を深めてほしい。

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この記事を書いた人
伊藤恵里奈
盛岡総局
専門・関心分野
ジェンダー史、自然環境、映画、異文化