(社説)東京科学大学 相乗効果を生むために
東京工業大と東京医科歯科大が統合し、東京科学大が誕生した。「医工連携」でそれぞれの強みが相乗効果を生み、世界トップ級の科学系総合大学に脱皮できるか、大がかりな「実験」が始まった。
国内有数の研究力を誇った両大学だが、国からの運営費交付金の減額などの影響で財務状況は厳しい。財源を確保するため、いずれも外部資金の獲得に力を入れ、授業料も値上げしている。
日本の大学は、研究力を測る指標で欧米やアジアの有力大学に水をあけられている。研究者の流動性が低く、財政規模の差も指摘される。
研究力の向上には、国が幅広い大学や分野に十分な基盤的経費を配り、裾野を支える必要がある。だが、財政難を理由に予算は増やさず、規模拡大や事務の効率化などを求めて大学に連携・統合を促す。今回の統合も、この流れの上にある。新大学は経常収益では北海道大を上回り、国立大学法人で7番目となる。
目的はそれだけではなく、毎年数百億円の配分を期待して、国際卓越研究大学制度への「挑戦権」を得る狙いも大きかった。研究設備を充実させ、国内外から優秀な研究者を集めるために活用したいと考えている。
ただ、認定された大学は年3%の事業成長を求められる。また、文部科学相の承認を受けて委員を任命し、予算などを議決する「運営方針会議」の設置も義務づけられ、大学運営に制約がかかる。
新大学は基礎研究、社会課題の解決、産学連携を研究の3本柱に据える。中長期的な発展には、基礎研究の振興が大切だ。政府が重点を置く研究や、短期間で成果が出やすい研究にばかり取り組む大学にならないよう、注意が必要だ。
規模を大きくするだけで相乗効果が生まれるわけではない。両大学の教職員や学生が互いの文化や考え方の違いを尊重しつつ、理解を深め合えるかがカギとなる。他分野の学生が教室で机を並べ、専門が異なる研究者が一つのテーマに挑む機会を、大学として積極的に増やしたい。
これからの社会は理系だけ、文系だけの知見では解決できない問題が増え、多様な人が自由な発想で研究に取り組める環境が欠かせない。4大学で共同して領域横断的な履修コースを作って連携してきた一橋大や東京外国語大の力を借りるなどして、学生や教員が広い視野を持てるようにするのも大切だ。女性や外国人などの比率を増やし、多様性に富むキャンパスにすることにも努めてほしい。