(ルポ激戦区 2024衆院選:3)世襲VS.くら替え、悩む「王国」 道路・病院、双方から恩恵

[PR]

 和歌山県の紀伊地域は、これまで大物政治家が絶大な影響力を誇る「王国」だった。その「あるじ」であり、衆院選で13回の当選を重ねた二階俊博氏(85)が引退した。新たな代表を選ぶ和歌山2区は、「世襲VS.くら替え」の構図に区割り変更も重なり、戦いを複雑にしている。

 参院からくら替えする世耕弘成氏(61)は、裏金問題で自民党から処分を受けて4月に離党し、無所属で衆院選に挑む。一方、自民公認を得た俊博氏の三男・二階伸康氏(46)も、俊博氏の秘書を務めていた時期があり、裏金問題と完全に無関係とは言い難い。

 保守が分裂し、双方とも負い目がある中で競い合うのは、地域貢献だ。

 和歌山市内から車で約2時間の場所にある本州最南端の串本町。人口約1万4千人、温暖な気候と黒潮の恵みが自慢の景勝地だ。

 「災害に強く信頼のできる道路がこの町へ」

 高台の大きな看板が、自動車専用道路「すさみ串本道路」(19・2キロ)の開通が近いことを伝えていた。俊博氏が尽力した通称「二階道路」の一部で、地元のホテル従業員は「観光客が増える」と完成を心待ちにする。

 一方、看板にほど近い台地に建つ町立病院は、勤務する10人の医師全員が、世耕氏が理事長を務める近畿大学の関連病院から派遣される。町は、双方に支えられてきた。

 「町長のつらい立場もわかります」。田嶋勝正町長は先月、世耕氏から電話でこう告げられたという。世耕氏の貢献は肌で感じているが、二階氏支持で固まる町村会の決定には逆らえなかった。田嶋氏は「理解してもらい、ほっとした」と胸をなで下ろすが、選挙支援を期待したはずの世耕氏の本心がどこにあるかは分からない。

 ■衆参すみ分け、崩れた均衡

 10増10減による区割り変更で、和歌山県の選挙区は3から2に減少。二階王国と言われた旧3区に県北の市町が加わり、県面積の約9割を占める新2区になった。

 二階氏は、父の地盤だった旧3区での票固めが欠かせない。

 17日、自民の森山裕幹事長が旧3区の田辺市と印南町を訪れた。「政治の道を踏み外してはいけない」。世耕氏を批判すると、集まった約500人から拍手が起きた。

 世耕氏は、過去5回の参院選を全県で戦っており、区割り変更にも対応しやすいのが強みだ。

 二階王国の外から新2区に入る九度山町の山下晴夫副議長(76)は「即戦力の世耕さんから知恵をもらわなあかん」。昨年、県の人口減少率は全国で7位タイとなり、地域の衰退が大きな課題だ。内閣官房副長官や経済産業相を歴任した実績に期待を寄せる。

 王国の外でも二階氏を推そうと、20日には石破茂首相が海南市に入った。約900人の聴衆を前に「いま二階伸康に入れようと思っている方、それだけでは足りない。決めていない方々に『二階伸康を頼む』と言っていただかなければならない」と訴えた。

 それでも、ある二階陣営の市議は唇をかむ。「1回や2回頼んだって、(支持者の)頭の中には残らへん」

 衆院の議席を40年以上守り続けた俊博氏と、26年参院議員を務めた世耕氏は本来、互いの選挙を支援し合う関係だが、必ずしもそうなってはいない。その理由は、「源流の違い」にある。

 1998年、世耕氏が伯父の死去に伴い参院補選に立候補した際、俊博氏は自民を離れて小沢一郎氏らと結成した自由党にいた。補選でも別の候補を支援し、世耕氏を苦しめた。俊博氏は2003年に自民へ戻ったが、しこりは残り続けた。

 だが、「衆院は二階、参院は世耕」とバランスを取り、双方を応援してきた人がいることも確かだ。そんな支持者らは今回の選挙でどちらにつくか、選択を迫られることになる。「選挙が終わればノーサイドだ」。楽観する声がある一方、ある元市議は「なかったことにはなれへんよ」とつぶやいた。

 和歌山2区では、いずれも新顔で立憲民主党の新古祐子氏(52)、共産党の楠本文郎氏(70)、諸派の高橋秀彰氏(42)も立候補している。(堀之内健史、高橋杏璃、松永和彦)

 ■和歌山2区

楠本文郎 70 共新    〈元〉和歌山県議

新古祐子 52 立新[比] 〈元〉和歌山市議

二階伸康 46 自新[比] 〈元〉衆院議員秘書

高橋秀彰 42 諸新    農業

世耕弘成 61 無新    〈元〉経産相

 *届け出順。敬称略。氏名の後は投開票日(27日)時点の年齢。比は比例区重複立候補

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません