(社説)衆院選 地方政策 創生10年まず総括を
人口減の大波に洗われる地域社会をどう保つか。衆院選で石破首相は「地方創生の再起動」を訴える。だが過去10年の成果は乏しかった。まず政府と自治体が功罪を検証・総括する必要がある。
自民は「地方を守る」を公約の柱の一つに挙げた。「地方創生2・0」を始動させ、交付金を倍増するという。
地方での社会機能をいかに維持するかは、長年の課題だ。近年では、安倍政権が14年に「地方創生」と銘打ち、産業・雇用づくり、結婚・子育て支援をはじめ様々な政策の強化を掲げた。石破氏は初代担当相を務めている。
以来、国・地方が投じた関係予算は数十兆円にのぼる。だが、少子化や東京圏への人口流出に歯止めはかかっていない。多くの自治体が移住者の呼び込みを競ったが、「限られたパイの奪い合い」の側面が強かった。
政府が指針を示して自治体に総合戦略の作成を求め、国が認めた施策に交付金を配る手法も多用された。自治体は立案をコンサルタント会社に頼り、似たような戦略・事業が並ぶ例も目についた。
政府の報告書は、「地域の関係者に創意工夫の意識が醸成された」と評価するが、専門家には「自治体の意識は、どうすれば国から金をもらえるかに向かい、かえって中央依存を深めた」との見方も強い。交付金をめぐっては、コロナ対策で規模が一時拡大したこともあり、効果の疑わしい使途も問題になった。
首相は「再起動」にあたって今後10年の基本構想をつくるという。農林水産業の活性化などを訴えるが、新味に欠け、看板の掛け替えに終わる懸念が拭えない。「交付金の倍増」を強調するのも、選挙での人気取りに見える。
地方の課題は複雑で、息の長い実践が求められるものばかりだ。国が画一的手法で旗を振り、地方が従う図式では限界がある。自治体と住民が主体になり、国は後方支援と全国的課題に徹するという役割分担を確認すべきだ。国と地方は「上下・主従」でなく「対等・協力」の関係にあることを忘れてはならない。
岸田政権では、こうした地方分権の流れに逆行する動きもあった。非常時に政府が自治体に指示できる権限を広げるよう、地方自治法を改正した。今回の自民の公約集にも分権推進の姿勢は乏しい。
一方、野党の立憲民主や日本維新の会などは、分権を掲げ、権限や財源を自治体に移すと公約する。だが、選挙での大きな争点にはできていないのが実態だ。さらに議論を深めなければならない。