東京・楠田丘さん〈核といのちを考える 遺す〉

聞き手・花房吾早子
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東京都北区(広島) 楠田丘(きゅう)さん(91) 広島文理大理学部数学科3年

 (1)原爆は一瞬で多くの人を殺害し、傷つけました。この69年間、忘れることができない当時の体験、光景は何でしょうか。

 原爆の投下直後、今の平和大通りに出たら、大群衆が比治山に向かって走っていました。同じ方向に行ったら、いずれ火災で死ぬととっさに判断し、ひとり逆方向へ走り、元安川に飛び込んで広島湾まで泳ぎました。周りから吹き寄せる煙を吸って手足がもつれ、沈みそうになりましたが、流れてきた馬の死体の胴に乗り、1時間半後に海軍の救助艇に助けられました。

 (2)原爆は長い間、被爆者を苦しめ続けました。被爆してから現在まで、恐怖や不安、怒りを感じたことはなんですか。

 30歳くらいまで貧血に悩まされましたが、当時は栄養失調もあり、原爆の影響とは思いませんでした。転学した九州大、就職した旧労働省では広島での惨状を尋ねる人もいましたが、差別を受けたことはありません。職場の上司には「米国が憎いか」と質問されましたが、学生時代に米軍の飛行場でバイトをして生き延びたため「原爆で死んでいたら憎らしいでしょうが、生きられたので恨みは解消された」と答えました。

 (3)原爆投下から69年がたとうとしていますが、核兵器はなくなりません。どう思われますか。次の世代を担う人たちにどんなことを伝えたいですか。

 兵器は戦争を早期に安定的に終わらせるためのもので、一般人の社会生活を破綻(はたん)させるものであってはなりません。

 (4)東日本大震災原発事故が起き、たくさんの人が放射能への不安を抱えて苦しんでいます。こうしたなか、原発を再び動かそうとすることをどう思われますか。

 安定性が確保されていない現状では、原発の使用を全て禁止すべきです。世界の総力を結集して研究し、安全な仕組みが開発できれば、世界の経済、社会の発展に有効かもしれません。ただ、放射能不安が全くない機能を整備することが絶対条件。100年、200年かかるかもしれない。それまでは風力や水力、太陽や引力の発電を活用し、節電を進めたいです。

 (5)安倍晋三首相は自衛隊が海外の戦争に加われる国になることをめざしています。賛成ですか、反対ですか。理由も教えてください。

 反対。日本が国際紛争に参加し、世界の平和と自由をおかす。それが、やがて日本に跳ね返り、国内の平和と愛を汚すことになります。

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この記事を書いた人
花房吾早子
大阪社会部|平和・人権担当
専門・関心分野
原爆、核廃絶、ジェンダー、LGBTQ+