選択的夫婦別姓と同性カップル 「なぜ法律婚まで求める?」への答え

有料記事2021衆院選

構成・田渕紫織
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 配偶者同士が法的に同姓か別姓か選べる「選択的夫婦別姓」や、同性カップルの結婚が法的に可能になる「同性婚」。これらの実現に向けて長く取り組んできた人たちがいるものの、政治の世界ではなかなか前進してきていません。19日に公示される衆院選では、野党が公約の柱に据えるなど、焦点のひとつになりそうです。朝日新聞はこのほど、オンラインイベント「衆院選を前に『多様性と政治』を考える」を開催。自民党総裁選を振り返りつつ、夫婦別姓や同性婚を考えるポイントについて、記者とゲストが語り合いました。

 イベントのゲストは、選択的夫婦別姓の実現に取り組む「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんと、「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」代表理事で同性婚や別姓の訴訟を手がける弁護士の寺原真希子さん。進行役は政治の取材歴が長い秋山訓子編集委員です。

 主なやりとりは、次の通りです。

記事の最後では、このイベントのノーカット動画もご覧になれます

「夫婦同姓を義務付ける国は日本以外にない」

 秋山 選択的夫婦別姓や同性婚については、長らく活動してきた当事者たちがいましたが、なかなか政治の表舞台で取り上げられませんでした。ただ、ネットが発達して地方も含めて人々がつながったり、経済界から選択的夫婦別姓の実現を求める声が出たりしてきました。同性婚も、勇気を出してカミングアウトした当事者を応援する訴訟の活動が広がりを持ってきて、政治の側も受け止めざるをえなくなっています。政治家も世代交代が進みました。自民党内の議論を見ても、例えば選択的夫婦別姓については紛糾もしていますけれども、紛糾するということは当然賛成している議員もいるわけで、かなり変わってきたと思います。

 井田 ふだんはIT企業で働いています。地方議会と国会の両方に対して、改姓の苦痛や結婚ができない困りごとをもとに法改正を働きかける活動をしています。私は初婚の時から名前を変えたくなかったんですが、井田という元夫の名字でそのまま社会生活や仕事をしてきて20年経ちました。40代の時、当時(別姓を望んで)事実婚だった今の夫が手術を受けることになり、彼の配偶者として医療同意書にサインをしようとしたら、「あなたは本当のご家族じゃありません。本当の家族を連れてきてください」と言われてしまいました。

 私はすでに井田という名前を二十何年も使っていたので変えたくないですが、今の夫に元夫の名字をつけることはさすがにできないということで、法律婚をして改姓しました。非常に多くの煩雑な名義変更を何度も何度も繰り返して、疑問に思いました。夫婦同姓を義務付ける国は日本以外にないということを知り、頭を殴られたようにショックを受け、今の活動を始めたんです。

 寺原 私は2000年に弁護士になり、07年に結婚して夫の名字にそろえたので、寺原というのは戸籍名ではなく通称です。小学生の頃の1980年代には、すでに選択的夫婦別姓の議論は十分なされていたので、さすがに大人になるまでには実現しているだろうと思っていました。ところが、2000年代になっても実現していない。これはもう自分でやるしかないと思い、選択的夫婦別姓訴訟の弁護団に参加しました。

「個人の命に関わる話だと理解してほしい」

 秋山 当事者からは、具体的にどういう困りごとが寄せられていますか。

 井田 望まない改姓だった場合、尊厳が傷つけられるということですね。また、通称で旧姓を使ったとしても、生活上、仕事上で二つの名前を使い分けることによるトラブルがあります。

 それを避けようとすると、日本では夫婦別姓にする場合は法律婚ができないため、事実婚の状態になる。資産の相続やどちらかが倒れた際の医療同意ができなかったり、親権が片方になかったり、海外に配偶者として帯同しようと思う時に配偶者ビザが出なかったりといった問題も寄せられます。通称使用を拡大しても、こうした不便の多くは解消されません。

 寺原 法律婚ができないということは、具体的な法的不利益をたくさん被ります。それだけでなく、法律婚できないこと自体、これは同性カップルも同様ですけども、「法律で保護するに値しない存在なんだ」という差別的なメッセージを常に発し続けているという状態だと言えるんです。

 その結果、特に同性カップルの場合に顕著ですが、自分の存在が否定されたように感じ、将来を思い描くことができず、自殺も考えるという人も少なくありません。個人の命に関わる話なんだということを理解していただけたらと思います。

 今の民法ができた1947年の時点で、すでに夫婦同氏(姓)を強制するのは問題だという議論がありました。その後世論が高まり、96年には法務省(法相の諮問機関「法制審議会」)が法案を作って答申し、ほぼ毎年のように選択的夫婦別姓の法案は提出されているのに、議論を避けてきたのが政府です。中身について具体的に詰めていく段階にあると思っています。

「日本では法律婚がかなり強く保護されている」

 秋山 視聴者からの質問を紹介します。神奈川県の70代以上の男性から「選択的夫婦別姓制度の場合、子どもの姓についてどのように考えますか」という質問がありました。

 井田 今でも夫婦どちらかの…

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この記事を書いた人
田渕紫織
東京社会部|災害担当
専門・関心分野
災害復興、子ども
Think Gender

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男女格差が主要先進国で最下位の日本。この社会で生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。性別に関係なく平等に機会があり、だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダー〈社会的・文化的に作られた性差〉について、一緒に考えませんか。[もっと見る]