「1年に100人中退」西成高校が変わるまで 今や就職率100%

加藤あず佐
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 頑張らないのは生徒の自己責任ですか? こんな疑問を出発点に様々な取り組みを掲げ、変化を成し遂げた高校がある。大阪府立西成高校だ。年100人弱が中退し、荒れていた学校は今、生徒の学校満足度94%、就職内定率100%を誇る。「生まれ変わった」理由とは――。

 9日の卒業式では、3年生165人が巣立った。子育てをしながら卒業をつかんだ生徒が担任と抱き合い、不登校だった生徒が大学合格を先生に伝える――。笑顔と涙があふれていた。式辞で山田勝治校長(65)は、こう話した。「昨年は162人。わずかですが、毎年卒業生が増えています。『全ての若者に共通の教育を』という精神のもとで、着実な進化を感じています」。

 20年ほど前は、いわゆる「荒れた学校」だった。生徒は授業中に廊下に座り込み、スウェット姿で登校する子もいた。隠れて喫煙する生徒も少なくなく、1年間に2回、新聞に載る非行が起きたこともあった。

 改革に取り組んだのが、山田さんだ。2005年、教頭として同校に着任した。

 当時、生徒の家庭環境を調べると、4分の1の生徒が自宅に勉強机がなかった。ひとり親家庭が7割を占めるクラスもあった。山田さんは考えた。

 「頑張らないのは、生徒の自己責任なのか」

 家族の病気、虐待、いじめ――。自分のせいではなく、学びの機会が奪われてきた生徒たちがいた。

 「格差の連鎖を断つ」。これを学校のミッションに掲げ、「反貧困学習」を始めた。扱う内容は、シングルマザーの支援制度や、不当解雇との闘い方など。生徒は自身の生活を重ね合わせながら、社会保障制度や労働者の権利を学ぶ。

 家庭訪問にも力を入れ、多い年では年間600件実施した。社会的に養護が必要な生徒を支援につなぐため、行政との連携にも力を入れてきた。「西成高校には、区役所の分室がある」。連携の深さから、こんな風に言われるようになった。

 授業では、1年次に中学の国語・数学・英語を基礎から学び直す「モジュール授業」を行う。集中力が続くよう、1コマ30分。2年次からは、多様な選択科目から、進路や興味に合った授業を選んで学ぶ。

 同校が実施する調査では、「西成高校に入学して良かった」と答える生徒が、3年連続で90%を超える。就職内定率は、11年連続で100%を達成した。

 山田校長はこう話す。

 「『学び直し』というが、取り戻すのは知識ではなく、奪われてきた学びの機会。『わかる』『できた』という経験から、自信を得てほしい。西成高校で学ぶのは『生きる力』です」

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