かつてプロの世界を夢見てボールを追いかけた芝の上で、15、16歳の後輩たちに囲まれていた。優しい表情とは裏腹に、そこで発したメッセージは強烈だった。
「自分はここにいてはいけない選手だと周りに認めさせて欲しい。1年でも早く海外に出て活躍することを、君たちに求めている」
2022年6月、サッカー日本代表のDF冨安健洋(たけひろ)(24)は、自身が育ったJ1アビスパ福岡の練習場にいた。
世界最高峰のイングランド1部リーグの名門アーセナルでシーズンを終えて帰国。自身の発案で、育成組織の後輩たちを3日間指導していた。
メッセージの真意は何だったのか。
「サッカーをやっている以上、価値を証明しないといけない。チームで自分が一番でないと、上にはいけないというのが僕の感覚」
伝えていたのは、冨安の人生そのものだった。
ギラギラした野心は感じないけれど
17歳でプロデビューを飾った。海外勢にもひけを取らない187センチの大型DFとして、将来を嘱望された。
19歳でベルギーへ渡り、イタリアを経て、21年にイングランドへ。瞬く間に成功の階段を駆け上がったが、成り上がったという言葉は似合わない。
感情を表に出さず、いつも淡…