東畑開人さんの「社会季評」
ランドセルを巡る三つの報告書を読んだ。といっても教科書を入れる革のランドセルではなく、悩みを詰め込んだ心のランドセルのことだ。
一つ目は文部科学省のもので、小・中学校における不登校の児童生徒の数が前年度に比べて5万人近く増加し、24万4940人に達したという。中学生に限れば、全体の5%に及ぶわけで、衝撃的な数字と言ってよい。その理由として文科省はコロナ禍の影響も含めて、「人と人との距離」が広がって、子どもたちが不安や悩みを一人で抱え込んでいる可能性を指摘している。そう、子どもたちが荷物を背負いすぎている。ランドセルが重たすぎる。
こういうとき、スクールカウンセラー(以下SCと略)の出番がやってくる。世間的にはSCは子どもの話を傾聴することで、ランドセルに詰めこまれた荷物を魔法のように溶かす仕事と思われているかもしれない。実際は違う。子どもたちはシビアな現実が重なる中で悩みを抱えているわけだから、傾聴だけでは心を軽くするのに十分ではない。
たとえば、保健室登校をしている女の子が自傷行為をしている。腕に刻まれた痛々しい傷痕に、周囲は戸惑い、どう接すればいいのかわからなくなる。そういうとき、SCが話を聞く。彼女は自分をダメ人間だと責めていて、自傷したときだけ少し心が和らぐのだと語る。そう話せると、彼女は少しホッとする。SCが彼女の荷物を少し預かったからだ。
だけど本当の仕事はここからだ。SCは保護者や教師たちの困惑を聞いて、彼らの荷物も少し預かる。その上で、彼女の自責感がどういうものかを説明し、どう対応するかを話し合う。すると戸惑っていた大人たちは、彼女の苦しさを理解できるようになり、小さな配慮がなされるようになる。これが彼女のランドセルを少し軽くしてくれる。結局、心のケアとはみんなで心配し、みんなで見守ることに尽きる。そうやって、子どもの荷物をみんなで分担できるようにするのがSCの仕事だ。
しかし、ここでカメラを後ろ…