豊島将之九段「終盤のドキドキが好きだった」 成長、そして変調
将棋の豊島将之九段(32)は2日午前、静岡市葵区で始まった第81期名人戦・A級順位戦の最終一斉対局で佐藤天彦九段(35)との一局に臨んでいる。史上最年少で棋士養成機関に入会し、平成生まれ初の棋士になり、令和初の名人にもなった人。絶大な声援を受ける棋士の素顔をロングインタビューで追った。
自分の目で見たわけでもないのに、思い浮かべるだけで不思議と心を動かされるシーンがある。
豊島将之は1995年1月15日の夜、将棋と出会った。午後9時を過ぎた頃だった。
4歳の小さな少年は偶然眺めていたテレビの画面に釘付けになった。映し出されていた番組は、NHKスペシャル「対決 ~羽生名人と佐藤竜王~」だった。
棋界制圧に向けて六冠へと疾走する24歳の羽生善治名人。同期でもある最強の挑戦者を迎え撃つ25歳の佐藤康光竜王。両者が激突した竜王戦七番勝負を追うドキュメンタリーだった。
和装の両雄は盤を挟み、険しい顔で相対していた。
豊島の心を激しく捉えたのは、静寂の対局室に響く記録係の秒読みの声だった。
「50秒……55秒……」
読み上げる声が55秒を過ぎると、羽生は、そして佐藤は盤上に高らかな駒音を鳴らしていく。2人が戦っていることは、幼い子供にも分かった。
胸がドキドキした。一緒に見ていた母親に思わず聞いてみたくなった。
「お母さん、これは何をして…