絵画に演劇、映画 分野越えて追い続けた甲斐荘楠音の美意識
日本画と演劇、そして映画。強烈な個性で複数のジャンルを横断し、大正から昭和にかけて活躍した甲斐荘楠音(かいのしょうただおと、1894~1978)の足跡をたどる大回顧展「甲斐荘楠音の全貌(ぜんぼう) 絵画、演劇、映画を越境する個性」が京都で開かれている。画家としての評価の陰に隠れた別の側面に光を当て、異なる領域を軽やかに越えながら甲斐荘が追い続けた美意識に迫る。夏には東京にも巡回する。
97年以来、2度目となる京都国立近代美術館での回顧展。前展は画業に絞ったが、今回は「越境性」に着目。日本画家に収まらない甲斐荘の表現活動を大幅に加えて紹介する。幼少期から歌舞伎を好み、時に演じる側にも立った趣味人として。溝口健二ら希代の映画監督を支えた風俗考証家として。その多才さは目を見張るほど。「全貌」のタイトルがぴたりとはまる。
展示は5章立て。序章はよく知られた「描く人」としての作品から。妖艶な女性を描いた「横櫛(よこぐし)」など、人間の奥底にあるどろどろした情念をえぐり出す美人画が並ぶ。いわゆる理想美ではない、美醜あわせもった生々しさ。甲斐荘の真骨頂だろう。
続く第1章ではそうした作品に行き着くまでのスケッチ類やスクラップブックが充実。裸を「肌香」と表し、形だけでなく体温や体臭までをも探ろうと同じモチーフで試行錯誤する様は半ば狂気じみていて興味深い。
だがしかし、当時の京都画壇…