日本語を学び7年 医師になったイタリア人青年の原動力はアニメ

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伊藤恵里奈
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 「月に代わってお仕置きよ!」

 普通の女子学生が月のパワーで戦士に変身し、美しく、しなやかに戦う。その姿に心を奪われた。

 当時、10歳だったパントー・フランチェスコさん(33)は、テレビの前でイタリア語に吹き替えされたアニメ「美少女戦士 セーラームーン」に釘付けになった。

セーラームーンに励まされた少年時代

 イタリア・シチリア島で生まれ育った。ぬいぐるみをかわいがり、家で過ごすのが好きな少年だった。

 「双子の姉は、活発で外で遊ぶのが大好きで、友人もたくさんいました。でも僕は泣いてばかりで引っ込み思案だった」と流暢(りゅうちょう)な日本語で振り返る。

 「イタリア人の男なら、サッカーが好きだろう」という同調圧力が、息苦しかった。男友達の輪には入れず、「自分はなぜ周りと違うのだろう」と悩んだ。

 セーラームーンは、イタリアでも大人気になったが、あくまで「女の子向け」という扱いだった。

 当時、イタリアの男子の間では、日本の「ドラゴンボール」が大人気。だが、パントーさんは、敵を倒してより強くなっていくヒーローより、セーラームーンやアニメ「魔法騎士レイアース」、「ミラクル☆ガールズ」などで活躍する少女たちの気高さや美しさにひかれた。

 だが男子から「女みたいだ」といじめられた。「好きなものを好きだと言えず、つらかった」

 そんなとき、テレビで日本を特集した番組を見た。各地の美しい風景や伝統文化とあわせて、「ひきこもり」などの社会問題も取り上げていたのだ。

憧れの日本 「ひきこもり」問題を知り身近に

 社会との接点をうまく見つけられず家に閉じこもるひきこもりと、イタリアで居場所を見つけられない自分が重なった。日本を一気に身近に感じた。

 日本のアニメにひかれたパントーさんは、なぜ医師を志し、どうやって日本語力を磨いたのでしょう。超難関の医師国家試験を突破した原動力を探りました。

 「番組を見た後、母に『僕は…

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この記事を書いた人
伊藤恵里奈
盛岡総局
専門・関心分野
ジェンダー史、自然環境、映画、異文化
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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2023年4月15日19時30分 投稿
    【視点】

    この記事は一見、「海外の優秀な若者をインスパイアする日本アニメはスゴイ!」的な印象を与えそうだが、実際はもっと遥かに凄い話だ。 「ジャンル」や「コンテンツ」から力を引き出し、それにより自らの精神を活性化するというのがこのパントー・フランチェ

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    田中宝紀
    (NPO法人青少年自立援助センター)
    2023年4月15日19時30分 投稿
    【視点】

    独学の日本語で医師国家試験に合格されたこと、ただただ驚きました。”語学センス”というよりは、パント―さんの内面の豊かさが、日本語という言語の複雑で繊細な表現に合致したのかもしれないな、と(根拠はありませんが)推察します。 外国語に堪能な方の

    …続きを読む